【タッグマッチ！】

　キリエ＆菫ＶＳトワ＆姫。タッグマッチギアバトルが勃発！　たまたま居合わせた４人ですけれど、どちらも初心者とベテランマスターのコンビで、ちょうど良いバランスなのでした。
「さあっ、いくのですセラフ！　神の威光を示すのです！」
「ちなみに、キリエんは壁タンクだからそこんとこヨロシク」
「えっ？　カベ？　たんく？」
　『キリエ』のカプセルギア、ディヴァインセラフは金髪碧眼の美しい女性天使型で、全身あちこちに強固な甲冑を身にまとい、三対の翼で浮遊しながら移動します。動かすたびにきらきらと光が舞うエフェクトもついていて、なんとも神々しいお姿であります。
　その最大の特徴は、攻撃能力とスピードを限界まで犠牲にすることで得た、驚異の防御力！　さっそく飛んできた敵の攻撃にも、
「あぶないっ、避けるのですセラフ……って遅っ！？」
「ディヴァインセラフはディフェンス特化だからねー。ちょっとやそっとじゃビクともせんよ」
「あっ壁ってそういう意味なのです、ふぎゃあああ！？」
　ちゅどばばばん！！　いきなりビーム弾の集中砲火を浴びて、ディヴァインセラフは爆発に包まれましたけれど、確かに頑丈です。ダメージはほとんどありません。
　代わりにすさまじい鈍重さで、移動するにもひと苦労ですけれど……敵の攻撃を引き付け受け止めるのはまぎれもなく、ゲームで言うところのいわゆるタンク役です。
「で、キリエんが攻撃されてる間に僕が反撃するって寸法よ」
　『まんじゅう』は不敵に言いました。菫のギアマスターネームは、なぜだかまんじゅうでした。好物でしょうか。
　しゅぴーんとスマホの画面をひと撫ですると、彼女のカプセルギアがさっそうと駆け出します。
「東の風よ吹き荒べ。かねて嘶け鉄の騎兵よ。僕の愛馬、ユサールＢ３カスタムぅ～っ」
　気の抜けた口上とともに、ユサールＢ３カスタムは身をひねって敵の攻撃をかわし、ずががががっとガトリングガンを乱射。砲身が回転しつつ熱い弾丸を吐き出し、おびただしい数の空薬莢が宙をすっとんでいきます。
　彼女の愛機は、ディヴァインセラフとはまったく真逆のコンセプトで、アタックとスピードの二極特化です。ディフェンスは低く、高速の機体を操りながら敵の攻撃を受けずに倒すことを要求される、そのピーキー加減を彼女は気に入っています。
　ディヴァインセラフの背中を安全地帯として、時にその陰に隠れつつ、時に大胆な突撃を敢行しつつも、まんじゅうのテクニックは実に精密でした。
　とはいえ、対するふたりの即興コンビネーションもなかなか、負けてはいません。
「ギアバトルは戦術です。クールにいくですよ」
「roger！　buddy,Ready GO！」
　トワのギアマスターネームは『セツナ』。迷っていたら友だちが、トワの反対の意味ということでつけてくれました。ギアバトルに挑むにはおっとりすぎるから、なんて理由でしょうか？
　そんな友人たちも見守る中、セツナは相棒の意を込めてバディと呼ぶカプセルギアを、力強く前進させます。
「バディ、ライトアームでアタックデス！」
　ブレイズガーディが変わっていることのひとつは、カプセルギア自体に成長する補助ＡＩ、通称バディが組み込まれていることです。バディはA.I.C.O.のようにトワの言葉を認識して、状況に応じてブレイズガーディにある変化をもたらすのです。
　石畳の上を駆け抜けながら右手のライフルを撃ち、ディヴァインセラフを牽制するブレイズガーディへ、ユサールＢ３カスタムのガトリングガンが作る射線が迫ります。
「トワ、あの機能を使うのです」
「Yes！　バディ、変形するマス！！」
　バディはブレイズガーディの持つ複雑な機構を、バトル中の操縦と平行しながら動かすための補助ＡＩなのです。
　一瞬でじゃきん、じゃきーん！　ブレイズガーディは人型から、四足歩行の精悍な黒豹スタイルに変形！
　形状の変化によってアタック、ディフェンス、スピードの値も変化します。二形態を使いこなすことで初めて真価を発揮するのが、セツナのブレイズガーディなのでした。
「さてさて。私の『ナデシコ』はすばしっこいのですよ？」
　ガトリングガンの吐き出す銃弾の雨をブレイズガーディがくぐり抜けたところで、弾幕を途切れさせるべく、『ネコヤシキ』のカプセルギアが踏み込みます。
　ナデシコは和装の雅な女性型の機体で、右手に針のような剣を持っているところを見ると、まるで女の子版一寸法師といった風情です。左手の袖の中にはユミという名の短針銃が仕込まれており、射撃と同時に高速接近して剣を突き込むのが常套手段です。
　と言いつつも、戦術こそがギアバトルの要とのたまうネコヤシキのこと。
「カターい天使さんをハリで攻撃……と見せかけて、こっちです」
「おうっ！？　タンクのキリエんそっちのけでアタッカーの僕を狙うなんて、分かってるなー」
　お椀のようなナデシコのヘッドパーツにはステルス機能もあり、身を隠して接近すると、後衛のユサールＢ３カスタムを強襲！　主に関節部を狙って細身のハリを突き込み連続攻撃を繰り出すと、ユサールＢ３カスタムはガトリングガンと一体成型の盾で攻撃をしのぎつつ、右手のブレードを鋭く振るって応戦。ベテラン同士、綱渡りのような際どい応酬が繰り広げられます。
　もちろん、初心者組も奮闘！
「来た……！　セラフ、迎撃しやがるですよ！」
　ディヴァインセラフが、額に輝くクリスタルから高出力レーザーを照射！　セラフにとっては唯一の直接攻撃用武装で、その威力は折り紙付きです。
　空を切り裂くように薙ぎ払われたレーザーを際どくかわすと、黒豹スタイルのブレイズガーディが跳躍し、上空から飛びかかります。
「バディ、変形デス！」
「！　人間型に戻りやがったです……！？」
　セツナの叫びを合図に、豹から再び人型へ変形すると、右手のブレードを一閃！　首を狙った横一文字を、ディヴァインセラフは手甲でどうにか防ぎ、ゼロ距離のレーザー攻撃で反撃を試みます。
　まだまだぎこちなくはありました。けれど、簡単にド派手な動きができるのもカプセルギアの魅力のひとつです。ふたりはもう、夢中！
「スミレ、スミレー！　早く戻ってきやがるですよー！？」
「ふっふっふっ。キリエん、僕ぁ死に場所を見つけたよ……というわけで、そっちはそっちでなんとかしといて」
「おお、初見殺し的なナデシコの武装に対応するとは、なかなかやるのです。こっちも手が離せないので、よろしくなのですー」
「ＯＫ！　やってやるデス！」
　四者入り乱れてのタッグマッチは、善場模型店で今日一番の盛り上がりとなり、ギャラリーも大湧きでありました。
「仕方ねーのです。セラフ！　私たちの力を見せてやるのですよー！」



　鋭い一撃がヒットするたび、またそれを避けて反撃を放つたび、見守る子どもたちは興奮して、わあっ！　と熱っぽく声を上げました。
「おおお……やっぱりすごいなぁ、カプセルギアは！」
　滝原 カノンもまた、そのひとりです。手には彼のカプセルギアが握られていて、適当な対戦相手を探しにきたところ、なんとも燃えるバトルが目に入ったのでした。
　同じ年頃の平均身長より頭ふたつは背の高いカノンは、後ろからでも悠々と激闘を見物することができました。
「ふぅん。潮見原の新型変形ギアに、ナインナイツのレアモノ。向こうのベテランっぽいふたりのは、相当カスタム、ヤってるね。イイじゃん。イイ感じ」
　つぶやいたのは、お隣。どこかさめたような目つきの、牧 雪人です。カノンはきょとんとして、
「へぇ……そういうの、見ただけで分かるのか？」
「ギアマスターならね。自然と分かるようになるんだよ」
「へぇぇ！」
　見ると雪人の手のひらにも、カプセルギアがちょこんと乗っています。
　カノンはにっこりと笑いました。ちょうど良い相手を見つけた、と思ったのです。
「なーなー、おれと勝負しよーよ！」
　カノンが愛機を見せながら誘ってみると。雪人はすうっと目を細めてまじまじと見つめた後に、ま、いいよ。とそっけなく言いました。