The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【モロッコミニライブ】

　その頃、楽屋では、男の娘達によるてんやわんやの大騒ぎが繰り広げられていた。
「うーん。楓くんはどうにかしろって言ってたけど、具体的にどーすりゃいいんだ？　あ、そうだ」
　と、そこで衛の頭に名案が浮かぶ。
「安全ピンでこうしてああしてこうやって。うん、俺って天才じゃね？」
「アホかっ！　お前はもう触るなっ！」
　卯木衛が応急処置（？）をしていた衣装を横から来島アカリがひったくり、スタッフから借りたソーイングセットでチマチマと補修を始める。
「おー、アカリくん、裁縫もできるのか。……楓くんより女子力高いんじゃね？」
「やかましい！　見てないで、手伝……わなくていいからそこでジッとしてろ！」
「アッハイ」
　アカリから戦力外通告をされて、衛はその場で正座待機をする。
「頑張れ！　僕はここで応援してる！」
「アカリはお裁縫もできるのね。お持ち帰りしたい男の娘No.1の座をあげたくなるわね」
　エスカルゴ・臼居とスカラ（ロベルト・エメリヤノフ）は、他人事のようにそれを見ていた。
「先輩たちも見てないで手伝ってくれよなっー！」
　アカリはぷんすか怒るが、それがかえって見ていたくなる笑顔なので、かえってロベルトは動かなくなる。なお、エスカルゴは最初から戦力外（裁縫的な意味で）の模様。
　そして――。
「よし、なんとかできたっ！　卯木、プロデューサーに合図を！」
「よし来た！」
　アカリの頑張りに応えるべく、衛もまた颯爽と早着替えをすると、楓子にバトンタッチの合図を送るべく、スマートフォンを取り出した。

　　　* * *

　その頃、舞台の上では――

「そう　アイテム課金は　甘い　甘い蜜の罠――」

　と、楓子が我が身を振り返るような、アイテム課金制がいかに恐ろしいシステムであるかを表現した歌を歌っていた。
　クールでダンサブルなメロディとのギャップに観客のハートは意外にもガッチリ掴まれている。
　だが、
（く……。久しぶりに身体を動かしたせいか、眩暈がしてきたぞ……。このままでは楓子の身体がもたないっ……）

　完全なアドリブによるダンスと歌も、もはや限界だ。
　そう思ったとき、
（……あ、あれはっ！）
　楓子は舞台袖で、衛が交代ＯＫのサインを出している姿を発見する。
「……っ、ふっ、お待ちかねのラブコールか。さあ主役の登場だ！」
　楓子は最後の力を振り絞って、観客席に笑顔を振りまくと、舞台袖に消え、
（う、もう、だめぽ……）
　その場で、ばたりと気を失った。

　　　* * *

　そして、ついに本番が始まる。
「みんな、今日はありがとう♪」
　まず最初にスカラが落ち着いた声音で場を取り仕切り、

「アカリたちから感謝を込めて、この曲をプレゼント、だよっ！」
　と、アカリがハートが飛び散りそうな笑顔で、観客達を魅了する。

「み、みんな、最後まで思いっきり楽しんでいってね～」

　と、衛もぎこちないなりに精一杯のアピールを観客達に振りまく。

「僕達の歌で皆を骨抜きにしちゃうぞ♪（営業スマイル１２０％」

　と、エスカルゴもゲームで鍛えた（？）営業スマイルでファンのボルテージを限界突破させていく。

　そして、
「「「「Honeybee Valentine」」」」
　という四人の唱和と同時に、照明が落ちる。音楽が始まる。
　彼らが男性ということなど忘却の彼方に消えてしまいそうなほどキュートでフェミニンなミュージック。
　それにあわせて、観客達の四色のケミカルライト（それぞれの色がそれぞれのメンバーに対応）がリズミカルに揺れ動く。

「Honey（ハニ） Honey（ハニ）　Honeybee（ハニビ）バレンタイン♪」
「「「バーレンタイン♪♪♪」」」」

「恋（こーい）の罠は　甘い蜜の味」

　バレンタインの甘さと恋の罠（男の娘的な意味で）の恐ろしさを融合させた、キュートでエキセントリックな神曲である。

「「「「さあ、みんなも一緒に♪♪♪♪」」」」

　その後、４人の男の娘の声に続く、数百人の野太い声の歌がネコジマの大地を揺るがしたとかそうでないとか。