The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【Menu-etta（メヌエッタ）】

　一方、こちらは、浮舟久雨と畑中華菜子のユニット「Menu-etta（メヌエッタ）」のお披露目ライブ会場。
　ステージの裏。開演まで秒読みの段階。
　ちらりと久雨と華菜子が視線と視線をくみかわす。
「華菜子」
「くーちゃん」
　互いに頷き合う。
　もはや二人の表情に迷いの色はなかった。一辺の曇りもなき空のように晴れやかな表情が今の二人にはあった。
　そして、登壇。

「みんな、今日は私と華菜子の新ユニット『Menu-etta（メヌエッタ）』お披露目ライブに来てくれてありがとう」

「こうして、くーちゃんと一緒にみんなに会えて私とっても嬉しいアル」
　二人が挨拶をすると、観客席のファンから次々と好意的な声があがった。
「くー様素敵」「華菜子ちゃんカワイイ！」「ところで、結局、『Menu-etta（メヌエッタ）』って何？」
　などなど。なお、最後の質問はいまだ久雨も華菜子もわかっていない模様。だがしかし、大事なのはフィーリングである。
「それでは前置きはここまでにして、そろそろ始めよう」
「私とくーちゃんの初めてのユニットソング――どうか最後まで楽しんで聴いて欲しいアル！」

「「Menu-etta（メヌエッタ）！！」」

　二人で曲のタイトルをコールする。
　曲名はユニット名とまったく同じだった。
　二人の門出を飾る楽曲として、これ以上に相応しいタイトルはない。

　音楽が鳴る。
　スポットライトがステージを飛び交う。
　久雨は歌い、華菜子も歌った。
　曲調はポップス。
　だが、これまでの久雨のイメージとも、華菜子のイメージとも違う、クールとキュートがないまぜになったような、どこか混沌とした楽曲だ。
　しかし、第一コーラスは、二人は既存のイメージで歌い上げる。
　久雨はクールに、華菜子はキュートに。
　それは安定しているがゆえに完成度も高く、一方でそうであるからこそ、どこか新鮮味に欠ける。
　だが、限界突破の瞬間は間奏で訪れる。
（くーちゃん！）
（ああ！）
　華菜子の合図で、久雨が一歩前へ出る。
　そして、次の瞬間、久雨がこれまでのクールなイメージとは一転したポップな歌声を披露する。
　ざわ、ざわ、ざわ、と効果音が目に見えそうなほどに会場がざわつく。
（頃合いだな）
　久雨は確かな手ごたえを掴むと、ひらりと観客席に背を向けて相棒の名を呼ぶ。
「華菜子！」
「はいアル！」
　良い返事だった。
　そして、久雨と入れ替わるように、華菜子が前へ出る。
　直後、また会場がざわつく。
　今度は華菜子がこれまでのイメージとは１８０度違う、低く抑えたクールでドライな歌を披露し始めたからだ。
　そのときにはもう、このユニットのコンセプトが伝わっている。
　気がつけば観客席は総立ちになり、二人の勇気ある挑戦に惜しみない賞賛を贈っている。
　そして、楽曲が終わる。
　久雨が、
（これからもよろしくな）
　という想いを込めて、華菜子に向かって手を上げる。
　それに、華菜子がやりきった笑顔でハイタッチをかわしたところで――

　二人の初舞台は大成功を収め、無事に終了を迎えたのであった。