The NEKOJIMA M@STER｜リアクション

The NEKOJIMA M@STER

【時間稼ぎのミニミニライブ】

　そして、お渡し会終了後。
「ぜぇぜぇ……。な、なんとか乗り切ったぞ……」
　来島アカリは青息吐息の表情で、肩で息をしながら頑張った自分を褒め称えていた。
「うむ、アカリ氏、よくやってくれた。と、言いたいところだが、まだ気を抜くのは早いぞ。むしろ、これからのミニライブが本番だとも言える。ライブの出来はＣＤの売り上げに直結するからな。ほら、さっさと立ちたまえ。美少女が台無しだぞ？」
「お前は鬼かっ！？　ていうか、俺は美少女じゃないし！」
　楓子Ｐこと千歳飴楓子のスパルタな声援に、アカリはついにキレてしまった。
「……ま、まだこのあとライブがあるのか？」
　同じく心が満身創痍な様子の卯木衛が愕然とした声で、楓子に問いかける。
「うむ。心してかかってくれ、衛氏。さっきはやや表情が硬かったぞ？　まだ照れが残っているのではないか？　まあ、その路線もそれはそれでアリだが」
「そりゃフツー恥ずかしいって！　ていうか、開き直れてるみんなの方がスゲーんだよ！」
　みんなの方がおかしい――とは言わない衛の優しさは、しかし、このカオスな状況では正当な評価をうけることはない。
「ふ、甘いな、衛氏。ほら、エスカルゴ氏を見るがいい」
「みんなー、ちゃんと僕達のライブも見ていってね☆（ゝω・）vｷｬﾋﾟ」
　楓子が視線を流す先には、最後の去り際までファンサービスを欠かさない臼居・エスカルゴのプロフェッショナルな姿があった。
「スゲー……。エスカルゴさん、あんたスゲーよ……」
　衛はもう震える声で賞賛するしかない。
「うふふ。みんなとっても素敵だったわよ」
　と、色っぽいポーズをとるのはスカラムーシュことロベルト・エメリヤノフだ。
「スカラ氏もよくやってくれた。さすが年長者のお渡しは重みが違うな」
「うふふ、ありがとう。千歳飴Ｐのアドバイスのおかげかな？」
　ちなみに、アドバイスというのは、『渡すとときに相手の指をなぞれ』『意味深な微笑を』『相手に恋をさせたらこっちの勝ち』という適確かつえげつないものだった。
「さて、あとはライブを成功させれば巨万の富が楓子のもの……って、なん……だと……！？」
　と、そこで楓子は愕然と目を開いた。
　せっかく用意したライブ用衣装が、なんとも卑猥な感じに破かれていたのだ。
「だ、誰がこんなことを……！」
「ひでーな……。いや、別に着たかったわけじゃねーけど……」
「この卑猥な感じ……玄人の犯行だね……じゃなくて、どうするの？」
　衛、アカリ、エスカルゴが口々に言う。
「く……。やむをえん。こうなったら、楓子がとっておきの助っ人を呼ぶ。衛氏らはその間になんとかしてくれっ！」
「え……いや、なんとかって……ていうか、こういうのが楓くんの仕事じゃ――」
「馬鹿言え！　楓子が裁縫などできると思うのかっ！！！」
「ｱｯﾊｲ、なんかスミマセンでした……」
　楓子の鶴の一声に、衛は亀のように首をすくめるしかなかった。
　そして、

　　　* * *

「突然知らない女がステージに出てきてすまないな！」

　圧倒的な早着替えとともに、楓子（アイドルver.）が颯爽と舞台に登場した。
　いきなり予想外のアイドルの登場に、会場は一瞬騒然としていたが、どうやら可愛いのでＯＫのようだった。
「皆が待ってる彼らは今不思議の国で熊と格闘している所だ。というわけで、場を繋がせてもらうぞ！」
　楓子が合図を送ると、こんなこともあろうかと楓子が密かに用意していたクールでダンサブルな曲が舞台に流れ始める。
（ふっ。ダンスなら、ニャンコ・ニャンコ・レボリューシュンで何度かやったことがある。楓子のゲーマー度をナメてもらっては困る！）
　かくして、楓子Ｐの懸命のミニミニライブ（時間稼ぎ）がスタートした。