スクール水着は世界を救う｜リアクション

スクール水着は世界を救う

【７】

　なんだか奇異の目で見られている気がする……。
　学校では割と普通の生徒……をしてるつもりなのだけど、となぎさは思った。
　別段、今の自分を確認してみても、特におかしなところはない。
　髪型も普通だし、食べカスもないし、服装もちゃんと学校指定のスク水だし。
「……気のせいかな。ま、いつもどおりだよね」
　うん、いつもどおりではないけど、まぁいいや。
　せっかくの休み時間である。
　変なこと気にしてないで、有意義に過ごそうとなぎさは思った。
「バカタコー」
「ん？　おなか減ったの？　お昼はまだだよ？」
　肩で鳴くタコに微笑む。
「君、かわいいね。食べかけのお菓子ならあるけど食べる？」
　鞄からお菓子を出して与えると、もぐもぐバカタコは食べてくれた。
　ごはんをもりもり食べる動物はかわいいのである。
　まあ、タコを小動物枠に入れていいのかは知らないが。
　ぷにぷにとつっつくと、それに合わせてタコは身を震わせた。
「気持ちいいのかな……？」
「バカタコー」
「お、おい、音海」
　名前を呼ばれたので顔を上げると、クラスの男子が立っていた。
「おまえ、昨日の移動教室のときに教科書忘れてっただろ」
「あ、それ……？」
「ああ、掃除のときに見つけて、ほら気をつけろよ」
「ありがとう。でも、な、なんでそんなにジロジロ見てくるの……？」
「い、いや、それってどういうことなんだ？」
「どういうことって？」
「おかしいだろ！　なんでそんな格好で学校着て……いや、つうか、女子用じゃんか！」
「？？？」
　さっぱり言ってることがわからない。
　だーかーらーと、男子がなぎさの着ている水着をつまみ上げた。
　むっ、と顔をしかめるなぎさ。
「ちょっと、引っ張らないでよ」
　肩のバカタコの頭をポンと押すと、ビュビューと墨が男子に勢いよく吐かれた。
「うわぁ！　墨だぁ！」
　男子は悲鳴を上げて、教室から逃げていった。
　まったく、せっかくの休み時間なのに意味不明なことで時間をとらせないで欲しい。
「世の中にはなんか変な人もいるんだねー」
「バカタコー」

　＊＊＊

　校舎の窓ガラスに映る姿を、野菜原ユウはまじまじと見つめた。
　どう見てもスク水をまとった己が映っている。
　一度目線を逸らして、二度見してみた。
　ダ、ダメだ、やっぱりスク水の野郎が映ってる。現実だ。
　窓に手をつきうなだれるユウ、思春期真っ盛りの男子にはあまりにもショッキングすぎる状況だった。
「うう、ろっこんが暴走したわけでもねーのに、何故こんなことに……」
　しかし、そこは前向きさだけは定評のある彼である。
　すぐに顔を上げて、ガラスに映る自分をもう一度見つめた。
「けど、よく考えてみりゃ公衆の面前でこんな格好そうそうできねーよな！」
　そうだ！　そうだよ！　と思い直す。
　どうもこいつは神魂の仕業っぽいし、今なら全部神魂のせいにできる！
　普段できない体験を思いっきり楽しんでみるのもアリなんじゃないか！？
　いやむしろ、楽しまなきゃ損なのでは！？
「そう思うと、俺のスク水姿もなんだかセクスィでイケてる気が……」
「ユウくん！」
「うおおおおおおおお！！　俺は別に何もーーー！！！」
　突然背中に投げかけられた声に、スーパーボールばりの跳躍で飛び退くユウ。
　そんな彼を声の主……鬼河内萌は不思議そうに見つめた。
「どうしたの？」
「……って、鬼河内？　え？　ていうか、鬼河内も？」
　彼女もどう見てもスク水を着ていた。白と青を基調にしたマリーンなスク水にニーソックスという出で立ちだ。
「あ、これ？　なんかね、朝から着てたんだ☆」
「へぇ、そうなんだー……って軽っ！　いや、女子なんだし、恥ずかしがるとかさ！」
「んー。でも、パンツじゃないから恥ずかしくないよ♪」
「そ、そういうもんかぁ？」
「ユウくんはなんだか……ふふっ、レスリングのコスチュームみたいだね☆」
「え？　そ、それはフォローしてんのか？　おまえはなんだか……」
　ユウは下から上に萌のスク水姿を見た。
「小学校のプールの時間みたいだな」
「むぅ！　ちょっと、それどういう意味なの、ユウくん！」
　ぷうっと萌はほっぺを風船のように膨らませる。
「あ！　そ、そう！　ほら、いい意味で！」
「も〜！　なんでもいい意味で済ませられると思ったら、大間違いなんだよ！」
「ま、まぁまぁ、ところで、鬼河内はこんなとこで何してんだ？」
「え？　あ、そうそう！　ユウくんを探してたんだよー！　ね、タコカレー作ろうよ！」
「タコカレー？　それって、もしかして俺たちの身体にへばりついてる……これ？」

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