スクール水着は世界を救う｜リアクション

スクール水着は世界を救う

【９】

　放課後を告げるチャイムが鳴った。
　宣言通りタコカレーを食べるため、家庭科室にやってきた萌とユウ。
　なんだか雑然としている教室にハテナと首を傾げた。
　タコ焼きとか謎の水が放置されたまま。
　どうやら、朱蘭と詩歌は謎の覗き魔を追いかけて出て行ってしまったらしい。
「誰かいたのかな？　ま、いっか、早速カレーを作ろ、ユウくん♪」
「そりゃあいいけどさ、このタコ取れんのか？　全然離れる気なさそうだぞ？」
「大丈夫！　ボクとユウくんが力を合わせればできないことはないよ！」
　気合充分で取り憑いたバカタコに挑む萌。
　しかし、危険を感じ取ったタコはぬるぬるの身体を這いずり、彼女の身体を逃げ回る。
「ひゃあ！　や、やだ！　くすぐったいよぅ！」
　全身に走った感触は気持ちいいような、なんだか変な感じ。
　その感触に思わず、声が漏れてしまう。
「あっ！　ひゃん！　は、早く捕まえて、ユ、ユウ……ひゃあん！」
「へ、変な声出すんな、鬼河内！　くそ、大人しくしろー！」
「わっ！　そ、それタコじゃないよ　ボクのお尻だよ！」
　桃のような弾力の萌のお尻に、ロケットの如くユウは飛び上がった。
「ち、違っ！　目測を誤って……わわわ！　こ、このタコ！　いい加減にしろ！」
「あん！　ちょ、ちょっと、ユウくん！」
　今度は勢い余って、おもくそ萌に抱きついてしまった。
「ち、違うんだーーーーっ！！！」
　見た目以上に小さくて華奢な女の子の感触。あまりにも男子高校生には刺激が強すぎるぜ。
　慌てふためき、弁解するユウを微笑ましく見つめながら。
　でも、ちょっとうれしいかも……と萌は思った。
　仄かな乙女の恋心である。まあ、ユウは全然気がついていないくさいけど。
「……はぁ、でもどうしよう、これ」
「素手じゃ埒があかねーな。掴んでも滑るし……ん？」
　何かないかなと部屋を見回すと、誰かの散らかした調理器具が目に入った。
　これなら、と包丁を手に取ったユウ。
　軟体動物にはやはり打撃よりも斬撃。拾った包丁でスパッとタコを両断する。
　真っ二つにされたバカタコは断末魔の「バカタコ〜」を残して、ぐったり動かなくなった。
「おっ、やっぱタコには刃物か！　いけるぜ、鬼河内！」
「すごーい、ユウくん！　じゃあ、ボクも！　その包丁貸して！」
　萌も包丁を手に取り、ユウのバカタコをひと突きに。
「やった！　やっつけたよ！」
「おう、やるな！　んじゃ調理に取り掛かるとするか！」

「ん〜〜〜、美味しい〜〜〜♪」
　完成したバカタコカレーを頬張り、萌は満足の表情を浮かべる。
　タコカレーは予想以上に絶品だった。タコの絶妙な風味がスパイシーなカレーによく合う。
　多分これ、一晩置いたら、もっと美味しくなるタイプのやつだ。
「案外いけるな、これ。よーし、おかわりしちゃおうっと♪」
　ユウもカレーを気に入ったのか、もりもりカレーを食べている。
　そんな彼の姿に、喜んでもらえて良かった、と恋する乙女はうれしそうに笑った。
「……あ、ねぇ、ユウくん？」
「はふはふ、んー、どうしたー？」
「授業中ずっと考えてたんだけど、スク水を着ている人と着ていない人の違いはなんだと思う？」
「？　ああ、そういや、着てない奴もいるもんな」
　思い当たるだけでも、北風貴子、海原茂、桐島先生は着ていなかった。
　萌は何かそこに共通点があるのでは？　と考えているのだ。
「この３人の共通点って、真面目で責任感が強いってとこだよね？　あ、あと神経質そうってところ？」
「言われてみれば……？　けど、何が原因でスク水になってんだ？」
「それは……」
　ふと、手元のカレーに目を落とす。
「このタコ？」
　そういえば、スク水の人間には必ずタコがくっ付いている。
　ということは、タコがいなくなればスク水の効果も切れるのだろうか。
　それじゃあ確かめてみよう。水着の胸元を引っ張り、肩のところを下ろしてみる。
「わーー！！　いきなり何してんだ！？」
「え？　実験しようと思って？　でも、なんか脱げそうだよー？」
「そ、そうなのか？　けど、脱げるようになってもスク水自体は消えないんだな？」
「うん、でも消えたら裸になっちゃうし、消えなくて良かったかも」
「た、確かに！　あ、危ねー……ん？　待てよ、じゃあ逆にタコを付けると一瞬でスク水になったりすんのか？」
「……じゃあ、確かめてみよっか？」
　ニッコリと微笑む彼女に、怪訝な顔を浮かべるユウ。
「確かめるって何かいい考えでもあるのかよ？」
「えへへ、任せて♪　今ね、ビビっていい方法思いついちゃったんだー♪」

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