スクール水着は世界を救う｜リアクション

スクール水着は世界を救う

【３】

「うー……ねむ……」
　寝ぼけまなこをこすりながら、来島アカリは身体を起こした。
　いつもと変わらない朝、いつもと変わらない自分の部屋……なのだが。
　なんとなく違和感。
　はて？　この身にまとっているピッタリとしたものはいったい……？
「あれ？　俺、昨日はちゃんと着替えて寝たよな……？　つーか、こんな服持って……ん？」
　男子がおよそ感じたことのないフィット感が全身を覆っている。
　ただならぬイヤな予感に、ガバッと布団をはね退けた。
「って何この格好！？　すすすすスクール水着！！！？」
　こんなもん持ってる覚えも着た覚えもない。
「だ、誰がこんなの着せたんだよ！」
　慌てて脱ごうとすると、ぬるぬると身体のどこかにへばりついていたバカタコがその手を絡め取る。
「ひあっ！？　た、タコ！？　ぬ、ぬるぬるする……！　こっち来んな！」
　しかし、このバカタコすばしっこく、それでいて力強く。
　スク水を脱ぐどころか、バカタコを引き離すことすら無理くさい。
「バカタコ〜」
「く、くそぉー！　なんで寝起き早々、魚介類と格闘して負けなきゃなんねーんだ！」
　とそのとき、セットしてあったアラームがけたたましく鳴った。
「あっ、学校！　……って、こんなんじゃ行けねーって！」
　誰か助けを呼ばなくては……！
　けれども、この格好……誰かに見られたら死ねる！　精神的にも社会的にも死ねる！
　この状況を見ても笑わずに助けてくれそうな人間……。
　そんなに人間に、ひとり心当たりがあった。昔っから餅は餅屋という。変態な事態には変態だ。
「……そうだ、ロベルト先輩なら！」

『……なるほど。事情はわかったよ』
　電話の向こうで、ロベルト・エメリヤノフは複雑そうな声色でそう言った。
　気のせいか、ため息も混じっているような気がした。
『まさか、来島にも異変が起こっていたとはね……』
「『も』って、まさか先輩もその、スク水に……？」
『スク水どころか、タコまでくっついてるよ！　あーもう！　離れて……うう、取れない！』
　ドッタンバッタン格闘する音が向こうから聞こえた。
　ロベルトもアカリと同じように魚介類に人間の尊厳を踏みにじられているようだ。
　……なんとなく、電話口からでもそんな感じがする。
「先輩も同じ状況なら話は早いです。協力してこれ、脱ぎましょう」
『だね……。けど、こうなってるの僕だけじゃないんだよ』
「え？　それってどういう？」
『実は来島が電話してくる少し前に獅子目から電話があって、同じ状況みたいなんだ』
「し、獅子目まで！？」
『同じように脱ぐのを手伝ってほしいって頼まれてね。彼の家に行くところなんだよ』
「そ、そうなんですね……」
『だから、獅子目の家で合流ってことでいいかな？　３人ならなんとかできると思うし！』
「わかりました。すぐに向かいます」
　電話を切って、アカリは服を取る。
　スク水が脱げないなら、せめてその上に何か羽織れば……と思ったのだが、そうはイカのなんとやら。
　その瞬間、バカタコがぎゅぎゅ〜と身体を締め付けて邪魔をしてきた。
「ひゃっ！？　き、気持ち悪い！」
「バカタコ〜」
「な、なんで邪魔するんだよ！　スク水脱ごうとなんてしてねー……え！？　上に何か着るのもダメなのか！？」
「バカタコ〜」
　その通りといわんばかりに、バカタコは鳴いた。
「……ということは、決して短くはない道のりをこの格好で向かわなくてはならないってこと？」
　もう一度言っておこう。
　この格好……誰かに見られたら死ねる！　精神的にも社会的にも死ねる！
　英語でいうとマストダイだ！
「この格好で外出るとか、難易度高すぎだろーーーーー！！！！」

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