【バレンタイン】冬の赤いチューリップ｜リアクション

【バレンタイン】冬の赤いチューリップ

「みんなーっ！　こんにちはー！　いぬみんだよー！」
「ちひひー、あたしあかり。
　きょうはいぬみんのバルーンアートと、あたしのねんど細工で作品バトルをするの。みんなで楽しもうなの」
　BGMと客をステージへ呼び寄せる二人の元気な声がきっかけで、きとりと明里のパフォーマンスが始まった。
　ステージはバルーンアートとクレイアートのアーティスト二人が、お題を客から募集して作品バトルをする形式だ。

　ポップな衣装に身を包んだ二人の女の子の、何が起こるのか分からないステージ。大人たちは戸惑い気味だったが、いぬみんが見本がてらで花のバルーンアートを１つ完成させてみせ、明里が「リクエストがほしいの」と言うと、子供たちからはすぐに声が上がった。
「わんちゃんがいい！」
「ねこ！　ねこ！」
「ゴアラ！　大怪獣ゴアラ！」
　同時に叫ぶ声をいぬみんと明里はしっかり聞き取ったようだ。
「リクエストありがとうなの！」
「順番に作っていくね。まずはピンクのワンピースのお姉ちゃんのリクエストのわんちゃんから！」
　いぬみんがそう言って、膨らませたカラフルなバルーンをキュッキュッと器用にねじっていく。
　それはまるで魔法のように、たった数十秒で尻尾の長い犬のバルーンアートが出来上がった。
「わあ、かわいい！」
　歓声をあげたピンクのワンピースの少女へ、いぬみんはステージの上からバルーンを手渡した。そうしている間に明里の方も出来上がったらしい。
　その独特の感性に「柴犬かしら？」「……妙に凛々しい」とワンピースの少女の両親が話しながら笑顔になっている。
「ちひひー」
　明里が照れ笑いをした後に、少女は「こっち！」といぬみんのバルーンアートを選んだ。

　二回戦目のお題は猫だ。
「『ねこのおひるね』なの」
　明里が短時間で精巧な出来の籠に入って眠っている猫を作り上げると、いぬみんは丸まった猫を形作った。
　審査員になったリクエストした少女は「かごが素敵だからこっちがいいです」と明里の作った作品を気に入ったようだ。
　こんないぬみんと明里の軽妙なやりとりが、ステージの方へどんどん人を呼び寄せていく。
　ちょっとの失敗でも笑顔を絶やさず、明るく楽しいいぬみん。
　ニコニコしながら作品を作り上げていく明里。
　二人のパフォーマンスは自然と心が温かくなる、気持ちの良いものだった。

「——ごめんなさいなの。ゴアラは知らないので、そうぞうなの」
　明里が大きな——名前から想像したらしい——謎の生物を披露すると、いぬみんが正しい大怪獣を作った。
　大怪獣ゴアラの手元はバルーンで表現するには難しいと判断し、這っているポーズにした。ポップなバルーンという素材で、最大限のワイルドな表現だ。
「こっちー！」「いぬみんの！」
　いぬみんの作った正しい方のゴアラが満場一致で選ばれたが、明里は勝敗にはこだわらない笑顔だ。
　——だってこの時間がとっても楽しいから。
　明里のこの清らかな精神が、自身を『天使あかりん』だと思っている故か、本当に心から楽しいと思っている故なのかは、本人にも分からない。が、もし誰かのなかにそんな疑問が過ぎったとしても『どちらだって構わない』と思わせるような微笑みだ。
　するとお題を出した少年がその笑顔から何かを感じたのか、明里の近くへ寄ってきた。
「おねーちゃんの作ったゴアラもすきだよ。負けちゃったけどこれあげる」
　小さな手を懸命にステージに伸ばしながら、チョコレートの包みを差し出してくれた。
　するとそれを見ていた少年の妹らしき少女が「いぬみんにもあげるー！」といぬみんにもチョコレートをプレゼントした。

　明里といぬみんから出た「有難う」の言葉と溢れる笑顔が、観客たちを幸せで包んでいった——。　