雑貨店memoria～波と風のシークラフト～｜リアクション

雑貨店memoria～波と風のシークラフト～

　鬼河内萌がこのワークショップのチラシを見たのは、ちょうど野菜原ユウへ渡すバレンタイン用に何かないか探していたときだった。
　ただチョコを渡すだけなんて、あまりにも普通すぎる。ユウの気を引くためにももう一品、何か渡そうと思ったのだ。
　それには、シークラフトはなかなかいい物に思えた。
　海の物って、寝子島っぽいし。
　チョコは食べたらなくなるけれど、こういった物はいつまでも残るし。
　何より、自分が作った物がユウの部屋を飾るというのがいい。それを見るたびユウは萌のことを思い出してくれるかもしれないし、その一角はユウの生活のなかにつくられた萌のスペースだと思うとうれしくなる。
「でも、男の人ってどんなのを部屋に飾るんだろ？」
　萌には兄がいるのだから、兄の部屋を参考にすればいいのだが。
「どんなシークラフトなら喜ばれるのかな？　……あっ！　中山くんに訊けばいいか！」
　やはり兄に訊くという選択肢はないらしい。いわゆる「お兄ちゃんと彼氏じゃ全然違うよ！」というものかもしれない。
　とりあえず、何でも目についた物は拾ってみよう。それらを見せて、これからだと何が作れるか訊いてそのなかから選んだほうがきっと早いと思って、萌は喬から受け取った『memoria』の袋を手に波打ち際へ向かった。
　砂の上には、貝がら、ビーズ、角がとれて丸くなった小さなガラス、色石といった物が散乱している。それらのなかからこれはとひらめく物を拾ってはポイポイ袋に入れていく。
　うつむいて、下ばかり見て歩いていたせいだろう。終了を告げるホイッスルの音がして面を上げた萌は、言われていた岩場をとっくに通り過ぎてしまっていることに気づいた。
　みんなの姿が見えない。
「いけない！」
　あわてて駆け戻ろうとした矢先、萌はあるものにつまずいてすっ転んでしまった。

「ああ、そこか」
　歩いて戻ってくる萌を振り返って、喬が言う。
「どこにいたんだ？」
「あそこ……」
　萌は岩場の向こうを指さした。
「どうりで姿が見えないと思った。向こうへは行くなと言っておいただろ」
「うん……」
「どうかしたのか？」
　萌の様子がおかしいことに気づいて問い詰める喬に、萌はどこか上の空というか落ち着かない様子で答えた。
「ボク、とんでもない物を拾ってしまったかもしれない……」
　それから少しの間、ちょっとした騒ぎになった。
　萌いわくとんでもない物とは、漂流物ならぬ漂流者だった。どうやら堤防へ朝釣りに来ていた少年が、足を滑らせて海に落ちてしまった際、頭をぶつけて気絶し、そのまま浜へ打ち上げられてしまったらしい。
　警察と救急車が呼ばれ、第一発見者ということで萌はパトカーで警察署まで行くことになった。
「中山くん、ごめんねっ」
「こっちはいいから、あせらないでちゃんと手続きしてこい」
「うん。密架さんにも謝っといて」
　あたふた乗り込んだ萌を乗せて、パトカーは救急車のあとを追うように去って行った。
　ただの材料集めのアウトドア活動だったのだが。とんでもないことも起きるもんだと思いつつ、喬はほかの参加者たちとともに店へ戻った。