天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

転：abbandonatamente　結末は誰のもの？

　新田亮は杖を構えると、素早く詠唱を行った。彼が持っている最大の攻撃魔法、『地竜招来』を発動させるために。
（詠唱が長いのがネックだが、間に合わせる！）
　『迅速』を使って杖をユヅキールへ向け、息を吸う。
「地竜、招来っ！」
　ずぅうぅん、と音を立てて現れたのは、まさしく東洋竜だった。赤銅色の鱗を輝かせ、ユヅキールを喰らう勢いで噛み付いていく。だが、それで倒れるほどユヅキールはやわではない。

　――足掻くか、冒険者！

　ぶぉん、と鈍い音を立てて起こる『音のいたずら』。だが、瓦礫や舞い散った鱗のお陰で場所は特定できる。
　だが、やはり運悪く巻き込まれるものも居た。効果が切れると地面にたたきつけられるため、この攻撃は地味に辛い。
（結構きいたな）
　もう、何度『音のいたずら』を食らっただろうか。片膝を突いて立ち上がった夜海霧楓は、真面目な顔で眼鏡を正した。
「しっかりしてくださいまし！」
　上下左右が治癒を施し、辺りを見渡す。辛うじて他の治癒士２人も残ってはいるが、HPが一番温存されているのは左右だった。中衛・後衛域に基本おり、円や亮が時折作る遮蔽物に隠れてやり過ごしたのが、功を奏したようだ。
「まだだ。まだこれからだ！」
　楓が声をあげ、御剣刀もまたガンッ、と両の拳を合わせる。
「こっからが本番だな」
「激情体……。のこり５分、相打ち覚悟でいくぜ！」
　来島アカリは大剣を手に『歌舞伎者の大見得』を発動させ、ヘイトを稼ぎ、大胆に振るう。ここからは一歩も引く気はない。刀とアカリは頷きあい、共に守りきろうと誓い合う。
「畳み掛けるぞ！」
　八神修が発破をかけるように叫び、同時に爆裂符を添付したクナイを投げて瓦礫を爆発四散させる。そして、黒兎都へと矢を渡した。
「わかってる。やる事はただ１つだし！」
　２人はばっ、と左右に別れ、ユヅキールを挟むように陣取ると炎属性を添付した矢を連発する。

「これが正念場ですねっ」
　薄野九月が頭を狙い、蹴り上げる。それに続くように白真白と羽生碧南もまた攻撃を重ねる。意外と冷静だったユヅキールに少々梃子摺った碧南だが、今のユヅキールは、感情をむき出しにしており、頭に血が上っているように見えた。

「そろそろ落ちて！」
　真白が、白い残像を残して舞う。流れるような『連閃撃』をかます。あわせるように九月が足を閃かせる。どうやら彼女もこの場で『連閃撃』を習得したのか、シンクロした動きがユヅキールに膝を突かせる。

　――それが、君たちの音なのか？

　衝撃波を解き放ち、２人を弾き飛ばすユヅキール。彼はふっ、と詰めたい笑みを零し、折れた翼を動かした。
　その瞬間を見計らい、楢木春彦が身構える。
「だから、何度もやらせるかよっ！」
　解き放たれた『ジンの乱舞』が超音波に対抗する。だが、その身体に衝撃が響き、思わず膝を突いた。
「しっかりするんだ、ユー！」
　エスカルゴ・臼居が周囲の人間に対しHP自動回復を施す『豊穣のアンダンテ』を発動し、春彦には追加でHP回復ポーションを飲ませる。
（やっぱり、体力が無いのは……問題なのか）
　自分自身もMP回復ポーションを呷り、エスカルゴは深く息をついた。

「！　これ意外と頭に響くっ！」
　詠唱を終えた桜庭円が叫び、同時に再びずうぅうぅん、と鈍い音を立てて４メートルはあるであろう、ごつい機兵……の上半身が、ユヅキールの側に現れた。『機兵ルドルフ』である。
（MPもだけどHPも削れるんだよね。でも、根性勝負だ！）

　円は籠手に覆われた手を見つめ苦笑する。MP自動回復機能は本当にありがたいが、今はもっと回復が欲しい。正念場なのだから。だが、HPが減るほど防御力が上がるという『這い上がる者の服』を纏っている分、少しは耐えられる、と考えつつも、彼女は命令を下した。
「ルドルフ、ユヅキールを攻撃せよ！」
　ルドルフは目をぶぉん、と光らせ、鋼の左腕とチェーンソーがついた右腕で攻撃を仕掛ける。ユヅキールは時にソレを交わすも、碧南がソレを許さない。