天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

「みんな、身構えろ！　兎も角逃げるんだ！」
　春彦が叫び、強風を起こして雲を払えないか試してみる。だが、雲は飛ばしても飛ばしてもすぐに寄ってくる。
（これだよ！　これの所為で最後に全滅ってレイドは数多いんだ！）
　エスカルゴは咄嗟に複数詠唱。１度の戦闘で１度しか使えない全体回復を行い、その上で同じく１度の戦闘で１度しか使えない全体BS無効を同時発動させた。
　戦場に落ちる雷。だが、咄嗟に亮が地竜をけしかける。円が生み出した避雷針も、多くのメンバーを助けてくれた。エスカルゴの機転と、彼らの術が、確かに実を結ぶ。
「悪いけど、僕は一足お先に帰ってるね」
「えっ？」
　サキリ・デイジーカッターがその言葉に怪訝そうな顔をしている側から、エスカルゴが七色のシャボン玉となって天に昇る。MPが尽き、ダメージを喰らったらしい。
（……あと少しで、ユヅキールが落ちると言うのに……）
　サキリは内心焦った。多くのメンバーは回復が追いつかないほど、ダメージを蓄積させている。MP回復ポーションやHP回復ポーションだって数に限りがある。いや、もう枯渇しているかもしれない。
　振動が続く中、サキリたちはそれでも勝利を掴もうと奮戦する。

＜のこり１分で、崩落します＞

　振動がより激しくなり、傷だらけの極天使は楽しげに目を細める。修は矢を構えるも、体勢を崩し放てない。
　だが、そんな彼を支えるかのように亮が魔法を使った。瓦礫から作られた障壁が支えている。修は息を吸って『五段射』……同一的に五連続の強撃を放つ。
「合わせる」
　静かにそういったのは、もうHPも尽き掛けている都。彼女が放つのは、『ピアッシングシュート』である。修が落下している間に、溜めは終わった。あとは合わせて放つだけだ。
　挟まれるように矢に打たれるユヅキール。それでも彼の目の輝きはまだ収まらない。

　――最後まで、楽しませてくれるよな？

　ユヅキールはにやり、と笑った。
（まずいっ！）

　遥斗が息を飲む。だが、瞬時に詠唱を行い、『拡散する癒風』を解き放って周囲の仲間を回復させる。あと少しでユヅキールを落とせる。一人でも多くの仲間を残すべく、彼は祈る。だが……。

　――虚空に止まる修と都。
　　　そして放たれる、淡い紫の稲妻。

（死なば諸共って言葉、知ってるかい？）
　サキリは雷より早く鎖を解き放ち、巻きつける。雷が落ちた瞬間、言葉にはできないほどの衝撃が全身を貫き、脳裏を白く染め上げる。だが、確かに天井にはユヅキールの叫び声が響いていた。彼も感電したのである！
「守ってみせるっ！」「これで……！」
　円が金属性の魔法で避雷針を作り、亮が動けない仲間のために土の屋根を作る。分散する雷の奥、春彦が剣を握り締める。
「これで、フィニート、だ！」
　勢いよく降りぬかれた疾風の刃が、ユヅキールの身体を吹き飛ばす。だが、それでも極天使は笑う。
「ぐっ……（あと少しだというのに……っ！）」
　春彦の体を雷が貫き、全身を激しく揺さ振る。彼は、思わず剣を手放し、歯噛みした。
　雷鳴が遠ざかり、光が消えた時。幾つもの七色のシャボン玉が立ち上って消えていた。
（間に合わなかったか……っ！）
　己もボロボロになりつつも、遥斗が再び回復術を施す。だが、助けたかった都と修、春彦、サキリは、消えてしまった。だが、遥斗と円、亮のお陰でまだ半数以上が残っているのだ。

　あと１撃で決まる。
　だれもがそう思ったとき、立ち上がった者がいた。楓である。

　――我、一振りの刃となりて　空を断つ

（SOCのスキルに、俺の知っている中で最も強かった達人の技をあわせてみよう。見様見真似だ、どこまで再現できるかわからない）
　だが、極めればもっと凄くなるだろう。そうおもいながら、楓が刀を抜き放つ。

　――虚空

　刹那、ユヅキールの表情が消えた。深く刻み込まれた太刀筋が、その喉を捕らえ……、聖堂の揺らぎは収まった。

　静寂が、聖堂を満たし、冒険者達はその中で息を飲んでいた。