天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

その頃、夏朝からBS解除ポーションを貰った左右は、BSが解除され他の冒険者たちの治癒をしていた。幸いにもエスカルゴと遥斗が正気であったため、BS解除は早く終わらせる事が出来た。ただし、油断は出来ない。
「今のうちに治療を。ユヅキールは重戦士たちが押さえ込んでる」
　エスカルゴの言葉どおり、サキリが鎖でユヅキールの動きを阻害し、アカリと刀、翼が取り囲んでいるからだ。
　エスカルゴと左右は手分けして治癒を施し、回復が済んだ者から次々に前線へと送っていく。そして、遥斗もまた最前線で奮闘する重騎士たちを回復させたり応援したり、とフォローしていた。
　その間も、刀はアカリと翼、サキリとユヅキールを囲んで攻撃し続ける。だが、相手も負けては居ない。
『騒ぎ立てるな、煩わしい』
　ユヅキールの声が聞こえたかと思うと、いつの間にか無重力の場所ができていた。『音のいたずら』が発動したのだ。
　だが、今回は無重力状態になった場所が、一目でわかった。亮が魔法で土の柱をばら撒いていたからである。
　咄嗟に刀は翼の首根っこを掴んで『火事場の底力』を発動、瞬間的に怪力を得、彼女を無重力地帯から引き離す。アカリもまたどうにか下がる事が出来た。
　運悪くサキリは巻き込まれていた。だが、彼はにやり、と笑う。

「それでボクの動きを止めたつもりかい？」

　ふわふわと不安定な空間の中、サキリの手から、ひゅっ、と銀色の爪が飛ぶ。天井にある金具へとそれを引っ掛けた彼は、音も無く身体を引き上げ、勢いに任せて大斧を振り下ろすっ！
　ユヅキールが避けようと動いたとき、鈍い音がした。意識の外にあった真白が足場をつかって跳ね上がり、『疾旋脚』をしかけたのである。因みに足場を用意したのは円と亮である。
「余所見厳禁、なんちゃってね？」
　真白がウインク一つ虚空で回れば、白い羽衣がひらり、と揺れる。入れ替わるようにサキリの大斧が降ってくる。
「逃がさないよぉ！」
　都が矢を放って更に動きを止め、サキリの大斧が豪快な音を立ててユヅキールを切りつけた。

　楓は、前衛組として刀を振るっていたが、眼鏡を正して重戦士たちを見た。【怒り】は遥斗によって解除されていた翼だが、明らかに疲弊が見えていた。その上、サキリもHPの半分を削っている。
「夕鈴とデイジーカッターは下がれ！　穴は俺と薄野で埋める！」
「ちょっと本気だしますよーっ！」
　九月の巧みな蹴り技の合間に、楓が素早い抜刀を見せる。背中を押すように梢が翼とサキリのを遥斗の前に押し出し、その横をきぐるみさんが走っていく。

(＾ω＾)＜いくよー

　きぐるみさんは六角棍で思いっきり突きにくる。それを回避したユヅキールを斬り付ける楓。だがユヅキールの攻撃は彼らではなく、派手に立ち回る九月へと向けられた。
「きゃっ？！」
　ユヅキールから放たれた音符が、九月を転倒させる。そこへ翼での殴打を重ねようとしたが、いつの間にか真白がカバーリング。それらを受け流し、その間に九月は起き上がった。
「大丈夫？」
「はいっ、ありがとうございますっ」
　真白に礼を述べた九月は、再びローラーブレードで駆け巡る。遮蔽物を利用して立体機動にも似た動きを見せれば、死角から強烈な蹴りを放つ。
　魔導士たちも負けては居ない。亮が土壁をつかってユヅキールの行動を阻害し、円が召還する『切り裂く右腕』や『鋼の左腕』、前に出た春彦が解き放つ『ジンの舞刀』（攻撃に風の刃を合わせる風属性魔法）も、ユヅキールを追い詰めていく。
「どりゃあああぁ！」
　雄たけびを上げて攻撃する刀がヘイトを稼ぎ、攻撃を受ける。その間に、碧南が不死鳥の剣を振るって確実にダメージを与えていく。
（普段の練習が、こんな所で役立つなんてね。お陰でこんな軽装でもがんばれるのかしら？）
　碧南の服装は、拳闘士並である。だが、元々有能なバスケット部員である彼女の身体能力が、回避や攻撃に活かされているのだ。それは、剣道部員として普段から鍛えている刀や、楓やサキリ等戦いなれている者たちにも言えることである。だが、碧南はその中でも特出して、全力を出せているようだ。
「さぁ、もう一度いくわよ！」
　彼女は気合を入れなおし、疾風のように前線へ躍り出た。