天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

「そこよっ！」
　回避を邪魔するように不死鳥の剣を振るい、ユヅキールの白い肌に【火傷】を負わせる。入れ替わるように唸るチェーンソーにユヅキールが苦悶の表情を見せる。だが、目元が笑い、オーケストラを指揮するように手が動く。
「しまっ……た！」
　【怒り】がついてしまったエスカルゴが、杖を手にユヅキールへと突き進む。だが、それを見逃さなかった者がいた。きぐるみさん（旅鴉月詠）だ。

Σ(ﾟДﾟ)＜急いでHSを！

「わ、わかった！」
　恵御納夏朝がきぐるみさんを急いで飛ばす。きぐるみさんの手にはBS解除ポーション。きぐるみさんは杖で殴りかかろうとするエスカルゴの前に落ち、急いでポーションを飲ませる。
　間に入り込んだアカリが剣を振るい、エスカルゴ達を庇う。
（普段はうっせーし、ずっと歌っていればいいって思ってっけど）
　攻撃を剣で受け流し、剣を振るい、自分に注目させる。仲間を守るために、アカリは剣を突きつける。
（今に限っては、歌われても厄介だなっ！　いいとこねーじゃねーかよっ！）
　気迫と共に振り下ろされる剣。響き渡るその音は、まるでアカリの叫びにも似て……。ユヅキールの口元が綻ぶ。

　――なら、その歌で死んでみるか？

「あぶないっ！」
「えっ？」
　刀がするり、とアカリとユヅキールの間に入り込む。鈍い音がして、刀がその場に崩れ落ちる。
「下がれ！　下がるんだ、御剣！」
「ここが正念場だ！　下がれるか！」
　優木遥斗が叫びながら周囲に治癒魔法を発動する。が、刀は振り払って剣を構える。
「俺が盾になる。だがら、早くユヅキールを！」
「承知っ」
「わかりました！」
　刀が叫ぶ。その横を、するっ、と抜けていくのは楓と翼。楓は流れるような仕草で抜刀し、夕鈴翼もまた身体に似合わぬ大きなハンマーでユヅキールを攻撃する。
「今こそ、命を燃やすときっ！　相打ち上等ですっ！」
　サポートをメインに動いていた屋敷野梢が、僅かに呼吸法を変える。『戦人の行進曲』による【怒り】添付もまぬかれた彼女は、ここに来て全力を出し切ろう、と考え、『李代桃僵』を解放した。受けたダメージ分の瞬発火力が増えるのだ。そこからコンボを成立させると、再び拳を振るう。
「落ちなさいっ！」
　ぎりぎりのHPで立っていた彼女から放たれる最大限の力が、ユヅキールを圧倒する。
「まだまだいけるよね？」
　真白がつづくとばかりに三度蹴り技が冴える『連閃撃』を放ち、くるり、とサマーソルトを見せると、落下を活かし拳を唸らせた。空中に居るときのみ放てる『天墜掌』である。
　衝撃が真白の掌に伝わるが、それ以上のダメージが、ユヅキールを揺さ振る。そこへ梢が再び迫る。
「これが、私の、『胡蝶拳』ですっ！」
　流れるように拳を振るい、舞うように蹴り上げる。文字通り、全身全霊の最大攻撃だ。しかし、彼女にもリミットは迫っていた。

「恵御納っ、俺をユヅキールの真上へ飛ばせ！」
「解った！　いっけええええっ！」
　ここが決め時だ、と悟った修。夏朝はこくり、と頷いて修を猫の手で吹き飛ばす。計算された動きで修はユヅキールの真上へと向かう！
（これを逃せば、俺たちは……っ！）
　短刀を両手で持ち、落下していく。落下速度と体重を、延髄へとかけるために。だが、ユヅキールはまだ動いている。梢と真白を翼で吹き飛ばし、乙女２人の体は儚くも七色のシャボン玉となって消えていく。
　修へ伸ばされる首。綻んだ口から歌が毀れ、衝撃波が放たれる。だが、それはあさっての方へと動く。サキリの鎖が首に巻きついたのだ。
　修の短刀が深くユヅキールの延髄へつきたてられる。だが、妙に手ごたえがおかしい。骨と骨の間を狙った筈が、ずれてしまったようだ。
（頼む、柄まで通ってくれ！）
　願いとは裏腹に進まない短刀。舌打ち一つで蹴りやり、後方へ離脱する。

　だが、そこでゴロゴロと雷鳴が鳴り出した。天井に雷雲が出現している。
　修は、いや、その場に居た者全員が、息を飲んだ。

　――怒りの旋律。