天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――｜リアクション

天界よりの試練　――極天使・自由を歌う者ユヅキール――

　入れ替わるように、アカリが一旦下がる。彼はユヅキール戦経験者らしいエスカルゴからそろそろ第３フェーズにはいるかも、というアドバイスを貰い、都たち中衛の護衛についたのだ。
「そうだねぇ。見た目的にむこうもちょっと辛そうだよね」
　都もまた、エスカルゴと同じ意見だった。ユヅキールの飛び方が微妙に不安定になってきている気がしたからだ。
　援護しようと修と共に矢を放つ都。修は自分と都の矢に火の魔力を添付していた。
（今回は、弱点がわかりづらい。だが、相手の属性は恐らく木と雷だから……）
　修は音符をばら撒き、まとわりつく冒険者を薙ぎ払おうとするユヅキールを睨み、息を飲んだ。

（これが、SOC名物のレイド……）
　ダメージか重なり、中衛域まで下がった春彦は、夏朝からMP回復ポーションを貰っていた。それをぐっ、と呷ると続けざまにカマイタチを発生させ、前衛組を援護する。その間も、夏朝が愛らしい猫の手を持って身構えている。だが、元々夏朝は小柄なので、猫の着ぐるみ鎧はちょっと辛そうに見えた。
「？　それ、重いのか？」
「？！　大丈夫だから！」
　夏朝は心配しないで、と言うものの、春彦は懐疑的な眼差しを向ける。その視線に思わず
（ろっこんがつかえたらよかったのに）
　と内心拳を振るわせたくなる夏朝。だが、遠くに見えたユヅキールが近づいているように見えた。

　――子守唄でも、歌ってやろうか？

　不意に聞こえた声。遅れて放たれる衝撃波。『静寂の歌』である。
　夏朝はすかさず春彦を庇い、衝撃に耐える。それに、大きな衝撃音も聞こえ、思わず耳を塞いだ。
（これ、ちょっと痛い）
　歯を食いしばって耐えていると、後方から柔らかい声がした。左右である。夏朝が春彦を庇った位置が良かったのか、彼女も助かったのだ。
「大丈夫ですか？」
　左右が治癒を２人に施し、辺りを見渡す。軽戦士組と拳闘士組に疲労の色が見え、遥斗とエスカルゴが治癒に当たっている。左右は中衛・後衛を見る。と、亮と円の前には鉄の壁があった。さっきの衝撃音はこれが原因だろう。円の壁によって修と都は助かったのだが、思わぬ音の大きさに、耳を押さえていた。
「あー、ごめん！　衝撃波を抑えられないかなーって」
「次は俺が土の壁を出してみるよ」
　２人の会話に緊張感が迷子になっている気がしたが、それどころではない。ユヅキールは僅かに微笑み、口元を綻ばせる、と、立て続けに『戦人の旋律』を使ってきたのだ。その眼差しが魔導士３人を射抜く。狙いはどうやら彼ららしい。だが、そうは問屋が卸さない。

「そう簡単に歌わせるかああああああっ！」
　刀が雄たけびを上げ、勇ましい歌を掻き消さんとする。それでも毀れ聞こえる歌を相殺せんと、春彦が再び『ジンの乱舞』を発動させ、戦場に夏風のような爽やかな疾風を呼び起こす。
　これらのお陰で効果は半減し、【怒り】がついた者も居なかった。この隙に真白が三度攻撃を仕掛け、梢は疲労したであろうメンバーをそれとなく遥斗の方へと流していく。時折ユヅキールの攻撃を適当に受け流して分散させ、攻撃するが、フォローに徹する。

（この様子だと、そろそろ時間ですかねぇ）
　目の前で翼を広げるユヅキール。だが、その姿を見れば見るほど、少し痛々しく見える。ダメージは、かなり通っていると見てもいいだろう。梢はそう判断する。
「そろそろ、落っちるっかなー？」
　円が呼び出した『鋼の左腕』が、三度ユヅキールを穿つ。すると、ユヅキールはどさり、と音を立てて地面へと落ちた。壁にたたきつけられた極天使は、無残に翼を折られ、膝を突く。
（これは……くるな！）
　亮がすかさず土の壁を展開し、中・後衛組を守ろうとする。重騎士たちもそれぞれ治癒士や軽戦士、拳闘士を庇おうと立ちはだかった。

　――ここまでくるとは思わなかったな……。
　　　ならば、これでどうだ！！

　その声に誘われたのか、徐々に石畳が揺れ始める。天上に罅が入り、瓦礫が冒険者達に降り注いだ。

＜激情体となりました。のこり５分で、聖堂は崩落します＞

　――戦いは、いよいよクライマックスへと突入する。