旧市街のお化け屋敷｜リアクション

旧市街のお化け屋敷

　　　３

　まもるを見送ってすぐ、美野梨は椿美咲紀と八神修の二人に会った。美咲紀は巧とクラスが同じだという。
「でも一度も来たことないから、ずっと心配してたの。プリントもあるし、年度末試験は受けないとヤバイでしょ」
　どうやら、二人はこの家の噂については知らないらしい。美野梨から話を聞いて、目を丸くしている。
　そういえば、と修はすっと目を細めた。
「あちこちガタが来ているな。瓦も落ちてるし、屋根は雨漏りしてるんじゃないか？　庭は枯れた雑草が生え放題だし、蜘蛛の巣も張ってる」
「でも、電気メーターは動いてるし、ガスはほら、プロパンガスがある。新しいの」
「ある程度、人が住んでいるような痕跡はある」
「まさか……孤独死してないよね！？」
「それはないだろ。写真の鬼婆がいるなら。食われてるなら別だが」
「大変！　助けないと！」
　大げさだな、と修は思ったが美咲紀の言動に何となく和む。
「取り敢えず、訪ねてみるか」
「そうだね。よーし」
　美咲紀は一大決心をしたかのように、玄関の前に立った。インターホンを押すが、中から音は聞こえてこない。どうやら電池切れらしい。ならばと、扉を軽く叩いた。
「ごめんくださーい。寝子島高校の者ですが、東門くんいますかー？」
　返事はない。
　修が手をかけると、扉はからからと音を立てて開いた。
「どうする？」
「……行く！」
　美咲紀は一歩、足を踏み出した。
「お邪魔しまーす」
　もちろん、挨拶も忘れない。
　修は土足で上がるつもりだったが、思ったよりも綺麗な廊下を見て、この家が何者かによって掃除されていることを悟った。ならば靴も脱がねばなるまい。礼儀は大切なのだ。

　三人が家に入った直後、篠崎響也と御剣刀も家にやってきていた。共に動機は好奇心だ。
「今、入ってったの、八神たちだよな？」
「中を調べてくれるなら、俺たちは周りを見るか？」
「そうだな」
　響也と刀は頷き合い、敷地内に入ると家の裏手に回った。
「今のは……？」
　そんな二人の姿をジョギング中の新田亮が見かけた。刀とは、友人とまで言えないまでも顔見知りだ。
「あ……あそこは、例の幽霊が出るって噂のお化け屋敷じゃないか……？」
　亮は元々、ホラーの類が苦手だ。おまけに以前、本物の幽霊を目撃している。従ってこの家の噂も、ただの与太話とは思えなかった。
　亮は迷いに迷った。だが、それほど親しくないとはいえ、見知った人間が危険に陥るのを黙って見過ごすわけにはいかない。
「……よし」
　意を決した亮は、敷地内に足を踏み入れた。風が吹いただけで木製の家はカタカタ揺れている。いかにも出そう、と亮は思わず唾を飲み込んだ。
　その時、
「あら。どちら様？」
　背後からかけられた声に、亮は悲鳴を上げそうになった。それを飲み込み、ついでに息を大きく吸い込んだ。脳内で「発動」と叫んだのは、咄嗟の防衛行動だ。振り返りながら後ずさると、玄関にぶつかった。
　どん、とたった一回だけ。しかし、古い家にとってはそれで十分だった。
　ぐらり、とまるで大きな地震が起きたときのように家は大きく揺れた。

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