旧市街のお化け屋敷｜リアクション

旧市街のお化け屋敷

　　　２

「ツケ？　ポニテ？　ああ、あの時の……」
　美野梨はまもるに、噂を教えてやった。聞き終わったまもるは、
「お化け屋敷とはまた季節外れだな。調査は進んでる？　オレは中を見てこようか？」
「そんな簡単に――」
「なに、クモになれば問題ない。行方不明者もいるんだろ？　中で事故が起こった可能性もある。確認しておいた方がいい」
「ああ、なるほど……」
　まもるのろっこんを思い出し、美野梨は納得した。それに彼の言うように、中で何か起きている可能性もある。動けないでいるとすれば――最悪の事態も想定できる。
「何かあれば連絡を入れよう。番号を教えてくれ」
　ごく自然な流れでケータイの番号を聞いたまもるは、内心、ガッツポーズを作った。そして思い出したように、
「あ、ちなみに行方不明者はポニテ？」
「男の子よ」
「なるほど。参考までに、鎌をもったドレスの女性はポニテ？」
「お婆さんよ。ちなみにこれが写真」
「なるほど……」
　髪を振り乱した老婆を見て、まもるは深々とため息をついた。美野梨は、「ポニーテールならお婆さんでもいいのかしら？」と首を傾げた。
「ああ、いやいや。キミの烏の濡れ羽色のポニテがご褒美でも問題ない。何か分かったり、怪しい場所なんかの情報があれば連絡をくれ。それにキミ自身も気を付けるように」
「どうして？」
「問題が中にあるとは限らない。ま、キミはしっかりしていそうだから大丈夫だろう。何かあったら知らせてくれ。キミの頼れる隣人であるオレが、必ず駆け付ける」
　ほとんど一方的に喋り、ウィンク一つを残してまもるは敷地内へ入っていった。
「ポニテねえ……まあ、いいけど」
　美野梨は黒髪をちょいと摘まんで呟いた。

「スパイダースバイダー！」
　まもるは蜘蛛に変身すると壁に張り付き、二階の通気口から侵入した。
　いくつかある部屋の一つだった。障子は破れ、畳は腐って浮いている。が、隅々まで綺麗に掃除してあるようで、埃一つない。蜘蛛の身にも優しい家だ。
　家具はないが、置いてあった跡はある。つまりは、かつて誰かが住んでおり――もしかしたら、今も、使っていないだけで住んでいるのかもしれない。
　部屋の様子を撮影したかったが、人ならぬ蜘蛛の身では携帯電話を持つことも出来ず、家の外に置きっぱなしだ。美野梨には連絡すると言ったが、それも難しい。
「仕方がない……」
　変身を解いてもいいが、見つかる確率が高くなる。時間はかかるが、まもるは蜘蛛のまま、探索を続けることにした。
　ドアの隙間から廊下へ、また他の部屋へと移動する。どの部屋も同じような状態だ。生活の臭いはない。だが、廃墟でもない。
　最後に突き当りの部屋に着いた。一階からの階段からは、最も遠い。
　隙間からするりと入り――驚いた。ここは、他の部屋とは違った。棚があり、机があり、何より布団があってそこに人が寝ていた。
　年の頃は十四～五。毛羽立ったスウェットを着ており、髪は伸び放題で顔はよく分からない。
　おそらく、これが件の少年だろう。
　――東門巧、だっけ？
　名前を思い出したと同時に、少年が寝返りを打った。その目がぱっちり開いて、まもるの姿を捉える。
「やあ」
とまもるは挨拶をした。にこやかな笑みを浮かべ。――そのつもりだった。実際には声は出ていなかったけれど。
　瞬間、ひっ、と巧は悲鳴を飲み込んだ。
「う、うわ、わっ」
　飛び起きた巧は、枕元にあったペットボトル、ペン、ノートをまもるに投げつけた。
「く、蜘蛛蜘蛛蜘蛛！！」
　あ、そうだった、今は蜘蛛だったっけと思っても後の祭り。次から次に投げつけられる物を避け、まもるはすぐに部屋から逃げ出したのだった。

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