バレンタインデート予行演習｜リアクション

バレンタインデート予行演習

　刀と千歳と海が食事をとりに店を出た後、ちりんちりんとドアベルが来客を告げる。
　エリセイとレナートが立ち上がると、ドアを開く音と共に、店内に「回覧板回しにきましたー！」と声が響いた。

「もっちー？」
　と、武道が反応する。やってきたのがミルクホールの近所にあるお好み焼き屋『うさぎ屋』の次男、宇佐見望月だと判明した途端、双子はドアの前に走り出していた。
「やあやあよくきたね！」
「寒かっただろう、中にお入りよ」
「え？　なんなのこれ？」
　両肩をガッと掴まれてホールまで歩かされる。
　望月は皆に取り囲まれるように立っている自分が信じられず涙目で武道へ助けを求めた。しかし武道は苦笑いを返した。
「バレンタインデーの予行演習ダヨ。気軽に、ネ！」
「武道ちゃん、助げでぐれー！　気軽にって、回覧板回しに来たら告る練習ですって聞いてねぇよ！」
「え？」何か勘違いしている？　と言いかけたイリヤの口を泉が後ろから押さえた。そのまま座られると膝カックンの要領で膝の上に座らされてしまい、イリヤは二の句が継げない。
「Good work!（よくやった！）」
　エリセイがニッと笑うのを望月がびくびくして見ていると、レナートが優しげに微笑んだ。
「告白？　相手がいるってこと？」
「いやそのあのその、確かに告りたい相手は居ますよ」
「どんな子？　丁度ヴァレンタインデーの話しで盛り上がってたところなんだ、俺たちにも教えてよ」
「ちょっと髪の毛短くて何でもよく食べて笑うとかわいくて——」
　そこから望月の彼女への想いは小一時間続いた。
「もうイイヨ」と武道が止めてくれるまで、皆がうんざりするくらいに全てを吐き出した望月は、こちらを向くまん丸な目たちを見てようやく自分の失敗に気付き始める。
「……そうじゃないって？」
「もっちー……」武道が同情的な笑顔だ。
「今やってんのは告白練習じゃなくて、『予行演習』」
　さっと真っ青になって、一瞬の後に真っ赤になった望月へ、イリヤがイリアちゃんの姿のまま「ねえ」と声をかけた。海外に住んでいたから付き合って下さいと告白する文化こそ分かっていないが、最良の選択肢は見えた。
「拗らせる前に愛を告げたら良いんじゃないですか？」