バレンタインデート予行演習｜リアクション

バレンタインデート予行演習

「イリアちゃん……？」
「はーい」
　向き合う相手に語尾にハートをつけた返事をされて、市橋誉は悩んでいた。経緯を今更思い起こしても仕方が無い。
　イリヤと仲が良いからこそ、そして仲間から見られているからこそやり辛さが全開だったが、開き直ったほうが楽になれそうだ。
「え、えーと…取り敢えず、シチュエーションは『普通に喫茶店』という事で」

　店員役のエリセイがこちらへどうぞと案内すると、店員より先に誉が椅子の背もたれに手をかけていた。
「おっ」これはと感心するエリセイの目の前で、誉はスマートにイリアちゃんを着席させる。
　女装少年相手のイメージデートで皆が疎かになりがちだったエスコートだが、誉は細やかさを忘れてはいなかった。
「イリヤ……じゃない、イリア、何を頼む？」
「……けーきせっと？」
　美少女のキャラクター性を模索しているイリヤが疑問まじりに注文して、チョコレートパフェ——を想定したやっぱりココアと紅茶が運ばれてきた。
　背の高いグラスにクリームがのっているビジュアルだけは、なんとなく近いものがあるが、実際のミルクホールのチョコレートパフェはチョコレートとバニラの二つのアイスクリームがのっている。
「冷たくないですか？」
「変か？　でも温かい部屋で食べる冷たいものも中々美味いんだ。ほら、イリアも食べてみろよ」
　誉はソーダスプーンでクリームを掬うと、イリアちゃんの口の前に差し出した。
　俗に言う『あーん』である。
　モニター側から悶える音がドッタンバッタンと聞こえてきたのを不思議に思いつつ、誉は本題に入った。
「今日は何の日か知ってるか？」
「２月１４日。День Святого Валентинаですね」
「海外だと、バレンタインデーは男女がお互いに愛や感謝の気持ちを伝え合うのがフツウらしい」
「Да！　Россия（はい！　ロシア）では、男の人から女の人へプレゼントや、Валентинка、ハートのカードを贈ります」
「だからじゃないけど……」
　とんっ、と誉は徐に一枚のカードを置いた。
　メッセージは『好きだ』と一言。
　ストレートな愛の告白に、イリアちゃんは口元を押さえ、カードを手に取り、どぎまぎと演技を超えて真っ赤になっている。
「俺の気持ち、イリアにちゃんと伝えたくて。
　いつもイリアには元気を貰ってる。有難う。受け取ってくれるだけでも、嬉しい」

「はい、以上です、もう無理。コレデイイカ？」
　誉は己も赤くなりながら皆のほうを向いた。
（我ながら物凄い気障な事をした）そう自覚があるからこそもう触れてほしくない、額を抑える彼の元へエリセイとレナートがやってきて、手首を掴む。
「え？」と顔を上げた瞬間、風を切る勢いでその腕が振り上げられた。

「優勝！！」

　双子の一声に、ミルクホールにいた面々は、満場一致と言うように割れんばかりの拍手を送ったと言う——。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：東安曇
ファンレターはマスターページから！

シナリオにご参加頂き有難う御座いました東安曇です。
意外に？ガチなデートが多かったですね。
リアクションをお楽しみ頂ければ幸いです。

＊

私事で申し訳ないのですが、体調を崩しておりまして、今回の個別コメントは控えております。
ファンレターや一言コメントを有難うございました。活力にして今後も頑張ります！

↑ページトップに戻る