バレンタインデート予行演習｜リアクション

バレンタインデート予行演習

「ハイ回覧板ハンコ押した、じゃあねー！」　
　デートをイメージして練習する。そんな噂を聞きつけてやってきた鴻上彰尋は、今しがたすれ違って行った望月の形容しがたい表情に目を剥いた。
　一体中で何が——。
　覚悟して開いた扉の先で、ドレス姿の少女に出会って全て飲み込んだ。

「最初の想定は好きな人相手だったから、ちょっといま目の前に居る子とはちょっと雰囲気違っていて……、好きな子よりもすっごく大きいし」
　１６９センチの彰尋は見上げる高さのイリアちゃんの足元を見た。ヒールが５センチくらい有りそうだから、実際は１７５センチってところか。
（俺より大きい）
　訝る視線にイリアちゃんは、慌ててこの場で一番長身の泉を引っ張り出して横に並ぶ。
　周囲は「策士だ」とざわつくが、勝ち誇った笑みである。
　この問題については一旦置いておいたとして、衣装もだ。
　彰尋が想う彼女もきっとロリータ服が似合うだろうが、私服はきっとカジュアルだろう。
　因みにイリアちゃんのドレスは紅緒の箪笥の肥やしだ。ウィッグは陽毬がコスプレ用に注文したものの気に入らず使わなかったもので、ブーツは若葉が撮影用に通販したが、サイズ間違えをしていたものである。
　まあこの件も置いておいて。彰尋は真実に迫った。
「……というかこの娘は、彼、だよな。役者志望なのかな？」
　その一言に皆が不自然に黙ったところで、背後からぽんっと肩を叩かれた。
「言わぬが花、よ」
　桜が首を横に振っていた。

　彰尋のイメージは、遠い将来の『ホワイトデーのお返しデート』だ。
「その子が好きそうなリアル脱出ゲームで遊ぶって想定だったけど、予定を変えて彼……彼女の服装とかでも楽しめそうな美術館はどうかな？
　君はそういうの、好き？　俺はよくわかんないんだよね。
　でも普段見ないものとか一緒になら楽しめたり新しい発見もあるかもしれないし、そういうのを一緒にしたいかなって」

　彰尋の言う新しい発見をする美術館デートは、展示された絵や像を見て「これが家にあったら」と想像しあったり、「タイトルをみないでポーズから連想する」ものだった。
「例えば、こんなのとか？」
　考える人のポーズを空中イスでとる彰尋は、デート相手の笑いを誘いたいらしい。
「アー……そうですね？」イリアちゃんは戸惑っているようで、モニター側では絶賛審議中だ。
　因みに締めくくりは、
「ちょっと遅いランチをおごりってどうかな？　美術館近くのって高そうだけど美味しそうなのありそうだし」

　こうしてデートの演技を終えて、イリアちゃんから伝えられた内容はこうである。
「『キニナル点は特になし』。だそうです。因みに『博物館や美術館デートは、選択の際に展示内容に注意すること』」
「展示内容？」
　彰尋の新しい発見をする巡り方でも駄目な何かがあるのだろうか？
「ある人の経験ですが……
　『夏休みのデートで寄生虫館へ連れていかれて、延々と寄生虫に関するマニアックな話を嬉々として聞かされた。同好の士ならもう和気藹藹なんだろうけど、ひたすらキモくてグロく。で、ダメだこいつ……』ってなったそうです」
「う、うん。分かった。覚えておくよ」

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