寝子島グレートレース｜リアクション

寝子島グレートレース

　深林真瞭はウォーキングで星ヶ丘の街中を回った。身体が程良く温まってきたところで海岸を望める道に出た。大きく腕を振って弾むように歩く。
　――海から吹く風が冷たくて気持ちいいわ。身体も軽い。
　心で思ったことを証明するかのように真瞭は足を速めた。歩行の限界を超えて走り始める。取り巻く世界が後ろに流されていく。足の回転を上げて、しがらみは引き剥がされた。
　真瞭は無心で走る。シーサイドタウンを抜けて旧市街にまで達した。
　その容姿に人々の目が集まる。
「凄い美人だな」
「モデルか？」
「おまえ、声かけろよ」
　真瞭の耳には届かない。激しい息遣いと耳元で発生した風に掻き消された。
　目の前の石段を駆け上がる。最後の数段は歩くようにして乗り越えた。
　真瞭は寝子島神社に背中を向けて、その場に座り込んだ。荒い息のまま、眼下の町に視線を送る。徐々に顔が上がって青い海を見た。両腕を支えにして広い空を眺める。
「すっきりしたわ」
　表情に一切の陰りはない。投げ出した足を引き寄せて立ち上がる。膝が少し震えていた。階段は止めて迂回する道を帰っていった。
　参道商店街を歩いている時、気紛れを起こしたように右手に曲がった。間もなく左手に杜の湯が見えてきた。
　――すっきりしたから、今度はさっぱりしたいわね。
　真瞭は軽い足取りで銭湯の暖簾を潜った。

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