【星幽塔】第一階層　ＱＵＥＳＴ！下水道のスライム退治｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ＱＵＥＳＴ！下水道のスライム退治

　時を少し戻そう。

　衛がスライムの間を走り回っている時、弘明寺能美子は溶解液で負傷した仲間の回復に走り回っていた。
（おかしいわ、何でこんなに忙しいのかしら？）
　確か回復役は自分１人ではなかったはずだ。溶解液がぶしゃぶしゃ飛んでくるせいで仲間達は頻繁に怪我をしたが、風の力のお陰でそこまで直撃する者はおらず、比較的皆軽傷だった。だからこそ回復も短めにすんでいるはずなのだが。
（もう１人の回復役………骨削瓢さんはどこ行っちゃったのかしら？）

　瓢は戦闘から離れ、しれっと下水道の枝道の１つにいた。
　プカプカ流れてきたスライムの残骸を引き上げ、丹念に調べる。そしてチッと舌打ちをした。
「これじゃあ生きたスライムの回収は難しいねぇ」
　忌々しそうに手元の残骸を床に落とす。それはベチャリと音を立てて平べったくなったが、溶解液はもう出てこなかった。

（溶解液を包む袋が体内にあると思ったんだけどねぇ）
　瓢が今回クエストに参加した真の目的は、スライムや大ネズミを捕まえる事にあった。それは偏に自分の店『アテルラナ』のためだ。彼は捕まえたモンスターをそこに商品として出すつもりだったのだ。
　スライムの体内に溶解液を入れる袋があれば、それをうまく繋ぎ合わせてスライムを丸ごと１体頂こうという算段であった。そのために下水道の外に運び人まで雇っていたのだ。
（体内に袋がない……てえ事はこのジェル状の体自体が大きな袋の役割をしてるって訳かい）
　瓢がふうむと考えていた時だった。ジュッ！　と音がして瓢の服の裾が突然溶ける。ハッと顔を上げると、すぐ後ろにスライムがいた。
「しまった！」
　声を上げた瓢にスライムは容赦なく第２弾の溶解液を発射してくる。瓢は咄嗟に落ちていたスライムの残骸を投げつけた。するとどうだろう。溶解液はスライムの残骸に阻まれ四方に飛び散ってしまったではないか。
「―――こりゃ面白い！　スライムが溶けない訳が分かったよい！」
　瓢はまた残骸を１つ掴んで後ろに飛び退る。これで溶解液の防御は何とかなりそうだ。が、しかし。
（敵さんを攻撃出来なきゃ結局はどん詰まりだねぇ）

　その時。
　ビュッ！　と鋭い風が起こり、瓢の目の前でスライムが切り裂かれるように吹き飛んでいった。
　振り向くと白い外套を羽織った美咲紀が、蔦状の光に彩られた杖をぐっと突き出し立っている。瓢の顔を見てその表情をほっと崩した。
「骨削さん、大丈夫でしたか？　間に合って良かったです～」
　彼女の後ろからもバタバタと駆けて来る仲間達が見える。どうやら巨大ネズミ退治は無事に終わったようだ。
（……こりゃ、モンスター捕獲はまた後になりそうだねぇ）
　瓢は内心苦笑したが、そんな事はおくびにも出さずにへらりと笑った。

「助かったよい。さ、みんなで力を合わせてスライム退治に行こうかねえ」