オニンピック in 魔界｜リアクション

オニンピック in 魔界

○血の海サーフィン

「オニンピック？　へー、面白そう」
　かまぼこサーファーこと寝子高３年の入江みつびは、地獄の様子にさほど戸惑うことなく『血の海サーフィン』への出場を決めた。
　そこに波があるのなら、鬼とか人間とか関係ない。
　とはいえ海の水は真っ赤だし、波の間に何かが見える気がする。
「変な色の海だけど波はよさそー。まずはお手並み拝見ね」
　一番手の鬼の女子選手がサーフィンを始めたので、みつびはじっと観察した。
　なぜか手に柄杓を持っている。
　順調に波に乗る彼女だが、しばらくすると波間から亡者の手が伸びてきた。
「お邪魔虫が海から出るのか……」　
　どうなるかとみつびが息を呑んで見つめていると、鬼の選手は波の面を駆け上がったり滑り下りたりして巧みに避けながら、柄杓で亡者の手を攻撃している。
「見事なアップス＆ダウンね。おっと、感心してる場合じゃないわ」
　見れば、サーフボードと一緒に底の抜けた柄杓が置かれていた。
「これ自由に選んでいいの？」
　係員の鬼に確認すると、みつびはボードをチェックし始めた。
「よし、これにしよっ☆」
　みつびが選んだボードはショートボード。
　小回りがきくので攻撃を避けたりトリックを入れたりするのに便利だ。　
「底ぬいた柄杓も準備OK」　
　底のない柄杓を、みつびはぶんぶん振り回す。
「効果なければ得意のボビナム蹴りね」

「応援に来たよ、頑張ってね」
「さっきは応援ありがとう……みつびさんも頑張って。思った以上にすごそうだね……」
　サキリと夏朝が応援に来てくれた。
「ありがとー、任せて！　底ぬいた柄杓もあるし」
「柄杓？」
　首をかしげる夏朝にみつびが説明する。
「漁師が海に出ると海坊主が表れて、柄杓を貸せー、っていう話があるの。うっかり貸すと船に水を入れられて沈められちゃうの。でもこれは底がないから大丈夫。武器にも使えるしね♪」
「あ、聞いたこと、あるかも……」
　夏朝が感心している。
「さて、いよいよみつびちゃんの出番ね」

「それじゃ、行くよ～！」
　みつびはボードに寝そべり、手で漕ぎながら十分に加速する。
「よしテイクオフ」
　波に乗り、立ち上がる。
「おおーボードに伝わる響きがいいね」
（水の粘度が高いみたい。これは大胆なトリック決めやすいかも☆）
　みつびは快調にトリックを決めていく。
「ループを通り抜けてと……うーん気持ちいい」　
　だがその時、海中から手が伸びてみつびの足を掴もうとした！
「うわ、邪魔きたー。それ、柄杓アターック」
　みつびは波のトップからボードごと空中に飛び出す、エアリアルという技を決めながら亡者を柄杓で攻撃する。
　柄杓で打たれた亡者は引っ込んだが、今度は反対側から亡者の手が押し寄せてきた。
「こっちは大群か。それ、かまぼこ3段蹴りーっ」
　ジャンプして三段蹴りをかますみつび。
「ヴヴヴ……」
　恨みがましい声を上げて亡者の頭が飛び出してきたが。
「うー、やー、たー！」
　ぼこばきずか!　すたっ！　と華麗にボビナムの蹴りを決め無事着水する。
「ヴゴヴ……；」
「決まったね☆」
　亡者たちは恐れをなしたか引っ込んでしまった。
「じゃラスト。エアリアルスリーシックスティーからの……」
　スピードを上げて波のトップからボードごと空中に飛び出し、さらに空中で横に１回転！　
　そして連続技を決める。
「ミラーダブル！」
　会心の出来に、みつびはウィンクした。
「イェイ☆」
　これには審判も最高点をつけた。
　　
「寝子島、入江みつび選手、金メダル！」
　表彰台で、銀メダルの選手が握手を求めてきた。
「素晴らしい技だった。でもこの次は負けないわ」
「あなたの技もよかったよ。また一緒にやりたいね」
　握手を交わし、微笑みあう。
「うふふ、じゃ4年後にまた」