オニンピック in 魔界｜リアクション

オニンピック in 魔界

○地獄体操女子総合

　真境名アリサが地獄へ落ちて、ビーチバレーと名も知らぬ悪魔との後腐れない身体だけの関係を満喫したのはつい先日の事。
　地獄も悪くないと思ったが、今回はオニンピックなるものへ出場することになるとは。
「確かにちょうどいい感じで角が生えているけど……」
　鏡を手に困惑はしたが、種目の一覧表を突き付けられた。
「出場はもう決定なのね……」
　すぐにどの種目に出場するか決めなければいけないということで。
「じゃあ……これ」
　夜の店でメニューからドリンクを決めるように、ここら辺はもうフィーリングで決定だ。
「地獄体操、女子総合だね」
　種目表を見た赤鬼は嬉しそうにアリサのスタイルを眺めた。
「女子の場合、体操は跳馬、段違い平行棒、平均台、ゆかの四種目だよ」
「ええ、知ってるわ」
　実はアリサは中学、高校と体操をやっていた。多少は腕に覚えがある。
（高校２年の時に県大会でいいところまで行ったっけ）
　けれどそれが才能の限界だった、と思う。
　小柄な選手のほうが有利とされる競技だが、長身を言い訳にしたくはない。
　体操をやっていた経験は皮肉にも今のガールズバーの仕事で役に立っていた。
　リクエストに応じて披露するポールダンスは柔軟性や筋力を駆使する。
　一から修行するとなるとかなりの時間と労力がいるし、誰にでもできるものではないのだ。

　久しぶりにレオタードを身に着けて、次第に気持ちは高校生の頃に戻っていく。　
「普段は忘れても、身体や感覚はまだ覚えてるわ……！」
　ブランクなど、まったく気にならなかった。
　店のお客よりずっとたくさんの、観客の視線が気持ちを高揚させる。
　鬼だからか、女子とは思えないほどたくましく体格のいい選手も目立つ中、スタイルのいいアリサに観客は熱い視線を向ける。
　だがこれは、セクシーさを売りにする仕事とはまた違った晴れ舞台だ。
　
　女子は男子より二種目少ないが、それは一種目での失敗が大きく響くということでもある。
　まずは段違い平行棒だ。
　見ていると何人か、着地に失敗して悲鳴を上げている鬼がいた。
「マットは針の山だから気をつけて」
　いつのまにかマネージャーのようについてきた鬼が言う。
「大丈夫」
　マットの代わりに針の山、というのもぞくぞくするような緊張感をもたらしてくれて、むしろ心地いい。
　男子の鉄棒などは、気を抜けば首の骨を折ることだってある危険と隣り合わせの競技なのだ。
　それを思えば針の山なんて可愛いものではないか。
（どこでどうすれば技がかっこよく決まるか、美しく見せることができるか……全部覚えてる）
　その緊張感とともに、忘れていた妖精の頃に戻る。
　アリサはためらいなく加速し、跳躍した。
　笑顔で回転し、技を決め、着地する。
「すごい……！」
　観客席にいた莉鳥はその完璧な演技に息を飲んだ。
　万雷の拍手に包まれ、妖精は微笑んでいた。
　成績が発表され、さらに大きな拍手が起こった。
　審査員全員が１０点以上の高得点をつけたのだ。
　
　他の種目も調子よくこなし、文句なしの金メダルとなった。
「寝子島　真境名アリサ」
　表彰台の一番上で、アリサはセクシーに金メダルに口づけた。

「いい演技だったな。さて次の競技は……ああっ！」
　観客席でプログラムを広げた修が思わず声を上げる。
「どうしたの？」
「馬術もあるじゃないか！　此処の馬ってどんなんだ？」
　馬も大好きな修は、すでに地獄の馬に興味全開のようだ。
「あれかな？」
　黒い馬の額から角が生えていた。
「ユニコーン！？」
「いや、あれは地獄の馬で、オニコーンだよ」　
　近くの鬼が教えてくれた。
「ありがとう」
　まっしぐらに、オニコーンに向かって駆けていく修だった。

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