誰もいない街｜リアクション

誰もいない街

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　誰もいない駅。
　車の通らない交差点。
　電光掲示板や信号の点滅だけが、無機質に繰り返されるシーサイドタウン。
　繰り返される店のBGMが物寂しい。
「人類だけが滅んだみたい」
　普段、決して見ることのできない無人の世界だ。
　莉鳥はアウトレットから日傘を「借り受け」、無人の街を心の赴くままにめぐっていた。
　狭い島だ。歩くたび、一つ一つの思い出が湧き上がってくる気がする。
「ここ、知ってる」
　そうしているうちに、ある路地に入った。不意に記憶の一部が蘇った莉鳥が足を止める。
「この道……昔、よく中学校へ行く近道で使ってたな」
　遅刻しそうになると、たいていこの道を使ったのだ。
「でも、生徒指導の先生がここで待ち構えていて……私も何度かつかまってしまったのよね」
　多分、近くに怪しげなお店があったとか、薄暗くて危険だったとかが原因か。
　不思議と、今は懐かしい。
　思い出に浸りながら、莉鳥は道を歩く。
　徐々に、記憶が戻ってきていた。

「本当に人がいない……」
　静かだった。
　相変わらず蝉の鳴き声は聞こえるが、街路樹から離れた路地では時が止まったように音が聞こえなくなる。
「塀の上とかに、可愛いものがいても良いのに…」
　夏朝が不満だったのは、人のみならず猫の姿も見ないためだった。
　あれだけいた猫たちは、どこに行ってしまったのだろう？
「あっ、猫さんだ！」
　視界の中に入ってきた『猫』に、夏朝は走り出した。
　正面に見えてきた店舗の入り口に、大きな猫のぬいぐるみが置かれていたのだ。
　抱きしめると、ふわふわの感触が夏朝を包み返してくる。
「可愛い……あれ？」
　満足そうに微笑んでいた夏朝は、不意に頭の中に、ある光景が浮かんでくる気がした。
「そういえば……この辺りを散歩したり、猫グッズとか色々買ったりしてたっけ？」
　思わず巨大猫に聞いてしまう。ちょっとマンガチックな笑顔が夏朝を見返していた。
「猫のシール沢山買ってた記憶も……」
　夏朝は持っていた学生手帳を広げた。巨大猫のぬいぐるみを抱えたまま、走り出す。
　それまでと違い、明確な目的を持った動きだった。
　途中にあった掲示板や地図等も頼りに、今の家――『桜花寮』へとたどり着く。
「恵御納、恵御納……あった！」
　名札等で判断し、『自室』に戻る。
「ここが、僕の部屋……」
　不思議な気分だった。初めて来たはずなのに、居心地の良くて、懐かしい。
「そうだ……僕、内緒で猫さん飼ってた！」
　部屋にあった猫用グッズに夏朝の目が輝く。
　だが、どれだけ探しても猫は見つからなかった。
「残念……」
　その後も、室内を探索していく。
　以前触った記憶や、写真などで新たな発見などを得ながら、次に机の引出しを開けていった。
「あれ、これは……」
　綺麗な日記と、鍵が２つ。
　それを見ていた夏朝の横顔を、窓からの日差しが照らす。
　夕日の赤い光が部屋を染めていった。