目が覚めると夏だった。
公園のベンチ。頭上では木が枝を伸ばし、青々とした葉が日陰を作っている。どうやら居眠りしてしまったらしい。
セミの鳴き声が聞こえ、肌を熱気をまとった風がさらっていった。急に汗を感じ、喉の渇きを覚えた。
――熱中症にならなくて良かった。
帰ろう。そう思って立ちあがりかけ――大事なことに気が付いた。
帰る場所、どこだっけ……?
いや、そもそもなんで、自分はここにいたのだろう?
…………、……。
ダメだ。思いだせない。
前後の記憶が完全になかった。それどころか、自分が誰かさえ思いだせない。
今の場所は分かる。
ここは寝子島、家の近所にある公園だ。
家が近くにあるのは分かる。でも、どんな家だったか思い出せない。目をつぶると、おぼろげなイメージは出てくるのだが、そこまでだった。
さっきとは違う種類の汗が出てきて、慌てて手にしていた荷物を探る。自分のモノなのに、他人の持ち物にしか思えない。
手掛かりは多かった。自分の容姿、名前が分かる。そして一枚の不思議なメモ。
『テオに頼まれ、セミの姿をした宇宙人と戦うことになった。激戦の末なんとか倒したけれど、宇宙人の鳴き声は記憶を徐々に消していく力があったみたいだ。それに宇宙人の最後の力で、みんなとも離れ離れになって、この「誰もいない寝子島」に飛ばされてしまった』
自分は小説家志望かなにかだったのだろうか?
どちらにしろ、宇宙人と激戦なんて、センスがちょっとない気がする。
そもそもテオって誰だ?
そんなツッコミをしながらも読み進めてしまったのは、自分の記憶がないということと、「誰もいない寝子島」というフレーズにどきっとしたからだ。
ようやくそこで気付く。あまりに静かすぎるではないか。
周りを見渡しても、公園には子供の姿すらない。どころか、道路には車が通っていなかった。
人の気配が、全然ない。
メモには続きがあった。注意深く読んでいく。
『この街は不思議だ。人の気配はないのに、生活感はある。透明人間ばかりが暮らしているようだ。たぶん、記憶を失った後、びっくりするんだろうな』
『完全に記憶が無くなる前に、元の場所へ帰る方法を書いておこうと思う。夜、月に向かって自分の大切にしているものをかざすこと。大切なものは……あれ、どこにあったか思いだせない。どうやら記憶がなくなってきたみたいだ』
なんだか妙な雲行きになって来た。
『とにかく家に行くと……いや、大切なものって家にあったっけ? とりあえず何でもいいから一つ月に……あれ、何を月に? ああ、暑い』
どうやら記憶を失う寸前に書いたものらしい。我ながら情けない。
とりあえず、仮に今の自分の状態が、このメモの通りだとすると、自分の大切なものを月にかざせば良いようだ。
問題は、本当に自分はこのメモの通りの状態なのかどうか。
もしかしたら嘘の情報かもしれない。よく探せば街にだって人はいるかもしれない。
なんにせよ一度家に帰りたいし、念のため『自分の大切なもの』を確保しておきたい。
そういえば、自分の大切なものってなんだろう?
家に戻ればわかるかもしれないが、メモの内容だと家にはないのかもしれない。
とにかく行動を、と立ち上がる。
記憶を失う前の自分はどんな人間だったのか。
ちょっと気になってきた。
こんにちは、叶エイジャです。
らっかみ!タイムでは2月ですが、このシナリオ内においては季節が夏となってます。
記憶喪失となってしまったあなたは、自分にとっての『大切なもの』を探しながら記憶を再構築していく。
そういう話になると思います。
自分の服装、あるいは携帯などの持ち物から自分が何者かは推測できるけど、どんな人間だったか思い出せない。
ガイドにあるようなメモなどが残されている人もいれば、残っていない人もいる。内容もまちまち。
家に戻って、置いてある物品を懐かしく思ったり、あるいは途中の景色などで不意に記憶の一部が戻るかもしれません。
記憶を失う前と後では、『大切なもの』の意味合いが違うかもしれません。
上手く元の世界に戻れば記憶は全て戻ります。その時、手にしていたものに対してどう思うのか……。
そうした「記憶喪失ロール」等を楽しむ感じのシナリオとなります。
●オプション(戦闘・逃亡シーンの付与)
自キャラの戦い・緊迫感も描いてほしいという方には、
夜が近づいて影が多くなると出現する【影法師】たちがもれなく追ってきます。
動きはのろく弱い影法師ですが、どんどん数が増えていきます。
影法師に捕まると「まずい状況になる」と本能的に感じるので、
戦って切り抜けるか逃げるかというどちらかの行動をとることになります。
あくまで戦闘シーンや、時間制限を加える演出になります。
●他参加者様について
あなたのいる寝子島には、あなた以外の人間はいない、「誰もいない街」となっています。
ですが、他の参加者様の姿は見えませんが、気配は感じることができます。
例えば参加者AさんとBさんが「私の大切なものは友人だ」と相手を指定した時、
「姿は見えないけど手をつないで歩いている」といった行動は可能になります。
●アクションに書いてほしいこと
大切なもの(複数OK)。
何か理由込みであれば、書いてくださると嬉しく思います。
それでは皆様のアクション、楽しみにお待ちしております。