鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

　混沌とした祭りも、終わりの時期を迎えている。

「みなさーん、甘酒もお汁粉もいっぱいありますから、順番に並んでくださいね～」
　大鍋を五つほど用意して準備万端の御鏡聖が、列を整列させるべく声を張っている。同時に、OKをくれた人の写真も撮っていた。ほしいという人には後であげられるようにと、住所と名前も聞いていたりしていたが、祭りの後の様々な写真が、彼女のカメラには収められているようだった。

　ある青オニは、カメラを構えた同級生に面を取ったところを激写されたりしつつ、お汁粉を食べて笑いあっていた。（なお、その際に「お汁粉たべすぎるとでぶでぶになっちゃうから、だめだぞ」と猫達に語り掛け、複数人の女性に言葉の刃で切り付けていたりもしたが、聖はとりあえず聞かないふりをすることを選択した。）

　またある少年二人は、追儺のことや鬼とは、などといったお話、お祭のよさなど様々な雑談に話をさかせているようだった。ここでも甘酒を楽しんで話題にしてくれたりしていて、頑張って準備した甲斐があったな、と思う聖。

　「皆にもっともっと、幸せがおとずれますようにー！」と願をかけながら中空に向かって残った豆をまいている少年の姿には、心が温まった。周囲も同様であるようで、同じような年代の少女や、銀髪が印象的な少年も、ほんわかとしつつお汁粉を口にして、祭りの余韻を楽しんでいる。

　一対一で豆まく側と逃げる側に分かれて戦っていたのが印象的な男女二人組も、とりあえずは恵方巻を頬張りつつ、あれこれと話しているようだった。本当の喧嘩にならなくて、何よりです、と胸を少し撫でおろす。

　ゲームのような雰囲気のコスプレをした少女と、そのお姉さんらしき人物、それにやたらと肌面積の大きい鬼のコスチュームをきた背の高い少女が、互いの恰好の話をしながら、お汁粉を食べていた。仮装を許可してからは、そういう風景もちょくちょくみられるらしいと聞いていたが、果たしてもともと知り合いだったのか、ここで出会ったのか――とはいえ、人の縁につながる祭であるならば、前日から気合を入れて頑張った甲斐があるものですね、と思う。
「もう！　あなたってばまた私を巻き込むんだから！」

　……ちょっとだけ姉妹仲を心配しつつ、終わりに向かいつつある祭の会場を、聖は歩き続けた。

　境内の奥の方、本殿の近くにちょこんとだけ座りあたたかなお汁粉を味わっている鬼の少年がいた。
　セミロングの髪。銀色の前髪を軽く流しただけのその少年は、祭りの余韻を味わうかのようにほっこりとした表情でお汁粉を味わっている。
「こんにちは、お祭りは楽しめましたか？」
　聖の問いかけに顔を上げた雨咲時雨は、こくり、と肯き微笑んだ。
「なんだか、小さな子達に追いかけまわされたり……おどかしたり……―参拝客としてくるよりも、お祭りに参加できた気が……しますね」
　えへへ、と笑う少年の顔を見ると、聖もまた、頑張って祭の準備をした甲斐があったなぁ、という想いを抱く。
「写真、お取りしてもいいですか？」
「え……はい。……ちょっと、照れます、ね」
「ふふ――ありがとうございました。後でお送りしますので、名前と住所お願いします」
　さしだしたメモに書きつける時雨。
「時雨君――ですね。ありがとうございます。また、来年もよろしければ参加してくださいね」
　そう言って小さく手をふると、時雨少年もまた、聖へとはにかんだような笑顔で振り返してくれる。
「みなさん、ケガもなく楽しんでくれて、よかったです……」
　ふぅ、と一つ息をつき。
　聖は社務所の方へと向かいがてら、次なる祭の余韻を探して、歩きだすのだった。

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