鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「あっれー、そこにいるのはサンマ君とマンボウ君ですねー」

　観光大使の寝子サンマさんと見習いマンボウ君が、鬼の面で隠しきれない地顔をさらしながら、境内をうろうろしていた――というか、マンボウ君の方は、鬼役の面のこわい部類のいくつかに追い回されたらしく、今にも意識が飛びそうになっている。
　美咲紀が声をかけようとする横からも、曖浜瑠樹がにこやかに優しく豆を投げつけていったりしている。去り際に、「サンマである、イワシではない！」と主張するプラカードを掲げたサンマさんに、「イワシじゃないって？　サンマさんはサンマさんだから、イワシさんじゃないよぉ？」と笑って走り去っていった。

　そんなサンマさんに「いやいや、イワシには見えないですよ」と、本当にそう思っているのか怪しい青スーツの鬼がツッコミをいれ、その勢いのままに「がおー！」と横を通った豆巻き役の子どもを驚かせ、あるいは金棒でつんつんつついたりしている。マンボウ君はといえばそんな鬼が横に陣取っているだけであわあわしている始末だった。
　やがて青スーツの鬼君がいなくなった頃合いを見て、美咲紀は声をかけてみることにした。

「マンボウくーん、息してますかー？」
　カメラで撮影しつつ尋ねると、ふるふるとマンボウ君が首？を振って応える。どうやらこれまでにさんざん脅かされてきたらしい。

「てぇえええいやああああああ」
「うわぁああびっくりしたですぅ！？」
　いきなり美咲紀の後ろから現れた鬼の面をかぶった少女が、大きな声で脅かしてくる。かわいそうに、マンボウ君はついに気絶してしまったようだった。

「あら、やりすぎちゃったかな」
　いけないいけない、と言いながら面をとったのは、水上桜。
「あ、寝子高新聞部の椿っていいます。今のは中々でしたよ～。ところであなたは何オニですか？」
　ICレコーダーを差し出して問いかける美咲紀の言葉に、ちょっとだけきょとんとした顔で首を傾げた桜。

「何オニっていっても、ただのオニというか――しいて言えば、甘えオニ？　かな？」
「甘えオニですか？」
「うん、よくある「試験間際になるとなぜか別なことをしたくなる」っていう、あれですあれ。根詰めて勉強しようにも何か別のことがしたくなっちゃうから、もういっそ節分祭でそんな自分の中のオニをおっぱらっちゃおうかなって」
　なるほど、と椿がうなずく。
「じゃあこれから合格祈願？」
「ですね！　甘酒もらって、恵方巻食べて、最後に合格祈願して！　です」
「よいことなのです。私もバレンタインのケーキが上手に焼けるようお願いしなければなのでした。それでは、桜咲くことをお祈りしておきますですよ。ありがとうございました！」

　そう言って颯爽と次のターゲットへ向かっていく美咲紀の後ろ姿を見て、桜はううん、とまた首を傾げた。
「なんであのひと肩に猫乗っけてるんだろう……」

　そんな不思議な後姿の美咲紀が向かった先――

「ふっふっふ～、正体みたり！　シュー君中々いい格好じゃないですかー」
　幼い子に思った以上に怖がられて面をとったところで、いきなり後ろから声をかけられた八神修が、慌てて振り返る。
　そうして目に入ったのは、いい笑顔をした美咲紀が、カメラを構えてバシャバシャと撮影している姿だった。

　美咲紀の横には、狩衣姿に烏帽子を被った恵御納夏朝がタコ焼きをつまみながら、「八神君のそれは、全身タイツなの？」と問いかけてきている。
　横では、激しい戦闘を繰り広げた後なのか、疲れた顔をした桃川圭花もまた、「すごい格好の人がいると思ったら、八神君だったんだ？」とあきれたような笑みを浮かべていた。

「あはは……。派手な衣装すぎて、恥ずかしかったんだけど、せっかくだからいいかなって――だから写真を撮るのはその辺にして、お汁粉でもどうかなっ！」

　勘弁してくれとばかりにお手上げし叫ぶ羽目になろうとは。楽しそうに自分のまわりを回りながら写真を撮る美咲紀の姿に苦笑しつつ、これまで味わったことのない節分だったな、と八神はしみじみ感じ入っていた。

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