鬼は外、福は内、寝子島の節分祭｜リアクション

鬼は外、福は内、寝子島の節分祭

「ハイ、先ずは身体の補正から！　胴のくびれと胸潰しをしないと、和服ってトンチキになっちまうからねぇ」
　気風のいい声で、相原まゆの小さな身体をくるくる取り回しながら、手早く着付けていく。
「ちょ、ちょ、そこは、きゃわん！？」
　年に似合わぬかわいい悲鳴をあげたまゆ先生。しかしそんな声を気にすることはなく、宇佐見満月はさくさくと作業を進めていく。ただし、顔には楽しくてしょうがないという文字を張り付けて。

「はいはいはいっと、これで補正完了……まだまだ終わりじゃあないよ！」
　身体を着物にあうように若干寸胴にした後、
「下着着て！　着物着て！　動きやすいように裾を捌いて！　角帯締めて！」
　実に楽しそうに、まゆ先生の身体をくるりくるりと回し扱っていく。その横では小さな子達がやはり軽めの着物を着せてもらうため、順番待ちをしていたが、若干その様子に引き気味なほどの威勢よさだった。

「締めるときは動かないで！　肩衣かぶって！袴穿いて！肩衣整えるから踏ん張って！　……ほいさ、印籠と扇をこうして、出来上がりっと♪」
　祭の入り口は、祭に適した服装から！　その信念に基づき、まゆ先生にあてがわれたのは半裃の上下。小物と併せて神社からの支給物だ。
　こうして着付けをしているのも、神社側からの協力依頼である。うさぎ屋の店内を臨時の衣裳部屋に仕立て上げ、着付け作業が次々と行われていた。もちろん、満月自身も同様の恰好をしていた。

「いやいやいやいやまゆ先生いいじゃないの。きりっとしてて似合ってるさね。これなら鬼もばっちり追い払えるってもんさ」
「そ、そうかしら？」
　ばしばしと、背中を叩いてくる満月の声に、若干ぐったりしつつ、まんざらでもなさそうに応じるまゆ先生。
「ご苦労様さね、着込んだだけで疲れちゃぁ祭は何も出来ないよ♪　他に準備に手間取っている子はいないかい？　ああ、おチビちゃん達はガッツリ着付けはしないさぁ　動き優先で、着崩れしづらいくらいの着付けにしてあげるさね。しっかり走り回れるようにしなきゃだからね」
　そういうと、一通りその場にいた子供たちにも着付けを施していく満月。
　曖浜瑠樹や佐藤瀬莉もまた、着付けをほどこされているうちの一人だった。

　瑠樹自体は節分祭への参加ははじめて。
　友達が豆まき役で参加するから一緒に参加しないかと誘われ、ついてきたのだった。
　本来豆まき役には一定の条件があるのだが、楽しければ問題なし、の精神で参加を認められている。

「なんかかっこよくっていいなぁ！　お姉さんありがとう！」
　ぱぱっと着付けてもらった満月に礼を言うと、「楽しんできなよっ」と、満面の笑みとともに軽く背を叩かれた。気風のいい満月の動きに、これがお祭りなんだ、という実感がわいてきたのだろう。
　瑠樹の中でも、ワクワク度がいや増していく。

「去年はいっぱいぶつけられたの。だから今回はあたしの方がいっぱいぶつけてあげるんだもん！」
　そう言いながら満月の手でくるくると身体を回され着付けられているのは、佐藤瀬莉。昨年は鬼役でひどい目にあったらしく、そのリベンジにと、燃えているようだった。

「はいよ、お似合いさんだよっ！」
　ポン、と肩をたたかれると、「そう？　やっぱり似合ってる？　えへへ」と嬉しそうにしながら、持たされているスマホを取り出し、鏡にうつった自分と、スマホの中の自分を相対させ、前後ともにチェック。

　うん、似合ってるよね。

　納得したのだろう、決めのポーズを思索したのち、自撮りを繰り返す。
「こういう和装も、なかなかいいよね」
　おませな風情でうんうんうなずきながらそういうと、心の中で、「自分でいうのもなんだけど、とっても似合ってるし」とこっそり付け加えていた。
　気合十分、恰好も十分。
　瀬莉のお祭り準備も、きっちりと整ったようである。

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