ねこモンＧＯＧＯ！｜リアクション

ねこモンＧＯＧＯ！

【しぐにゃんＶＳゴブにゃん】

　雨咲時雨は手にしたスマホの画面を覗き込み、『しぐにゃん』と名付けた相棒のカタニャンの能力値を確認していた。
「配信開始と同時にプレイを始めて、最初の最初に捕まえた僕の推しモン……。努力の甲斐もあって、だいぶ強くなってきたなぁ」
　着実にステータスを上昇させていく相棒の勇姿に、時雨は感慨深い気持ちになる。時雨としぐにゃんは、このアプリの原作ゲームである『ねこっこ☆モンスター』の頃からの長い付き合いなのだ。
「さて、今日もだいぶ育てたし、そろそろ帰ろうかな？」
「そこの少年。ちょっとお待ちなさい」
「え……？」
　不意に背中から呼び止められて、時雨は後ろを振り返り――驚きに目を見開いた。
　そこにいたのは白昼堂々白い仮面とニャンテンドーのロゴの入ったマントを身につけて歩く怪しい青年だった。
「……変態？」
「失礼な！　私はクロセル・ラインツァート！　お茶の間のヒーローですよ！」
「…………」
　時雨は見なかったことにして、そのまま立ち去るべきかどうか真剣に思案した。
　が、結局、時雨はそのクロセルという青年の話を聞くことにした。
　何故なら、そのクロセルの手にはスマートフォンが握られていたからだ。
「……もしかして、ねこモンバトルのお誘いですか？」
「ふふふ。話が早くて助かりますね。では、早速お相手願いましょう。行きなさい、私のゴブにゃん！」
　言うが早いか、クロセルはだいちタイプのねこモン、ゴブにゃんを繰り出した。
「……仕方がないですね。お相手しましょう。いけ、僕のしぐにゃん！」
　時雨もそれに応じるように相棒のしぐにゃんを繰り出す。
　しぐにゃんは刀を持ち、和服を身につけた武士のような姿のねこモンでスピードが速い。
「しぐにゃん、『つるぎのまい』！」
　先手を取ったしぐにゃんが、『つるぎのまい』を舞って、自身の攻撃力をグーンと上げる。
「ふっ。ステータスアップ系の技ですか。ならばこちらの戦法は『やられるまえにやれ』です！　ゴブにゃん、『ゴブがり』！」
　クロセルがマントをはためかせながら大仰な動作とともに命じると、ゴブにゃんがどこからともなく取り出したバリカンを手に、しぐにゃんに猛ダッシュで迫ってきた。
「『ゴブがり』って、その五分刈り！？」
　時雨は驚きつつ、「よけろ、しぐにゃん！」と命じる。
　しぐにゃんは頷くと、刀を手にしたまま大きく跳躍してゴブにゃんの背後を取る。
「いまだ！　『きくいちもんじ』！」
　そこで、時雨は相棒に決め技の発動を命じた。
　刹那、しぐにゃんの手にした刀がきらりと閃くと、菊のエフェクトと同時にゴブにゃんのＨＰがガクンと減る。
　攻撃は『きゅうしょにあたった』ようだった。
　そのままゴブにゃんはＨＰをゼロにして、その場でばたりと倒れた。
「おお！　なんということでしょう！　きっと二人は強い絆で結ばれているのでしょうね、素晴らしい！」
　それを見て、クロセルはまるで悔しがる様子もなく高笑いすると、ゴブにゃんをボールに戻してそのままマントを翻し去っていった。

「……結局、あの人はなにがしたかったのかな」

　時雨は苦笑しつつ、しぐにゃんに「よくやったな」と声をかけた。
　しぐにゃんは喋れないので、「にゃあ」と鳴くばかりだ。
　けれど、そのときのしぐにゃんの表情は、こころなしか少し誇らしげであるように、時雨の目には見えた。