鬼のいる日常｜リアクション

鬼のいる日常

【みんなでいただきます！】

　その頃、立花なつは自宅で卯木衛と一緒に夕食の支度の最終段階に入っていた。
「ちょっと作り過ぎちゃったかなぁ……」
　味見をしつつ、なつは居並ぶ豆料理の山に汗を垂らす。
「まあ、いいや。まもるー、そろそろ例の子連れてきてくれるー？」
「了解。ところで、あいつどこ住んでるんだー？」
「え？」
「え？」
　二人は思わず顔を見あわせた。
　二人とも、まさか両方とも連絡先を知らなかったとは思っていなかったらしい。
「ちょっ、まもる、どうすんのー？　こんなにたくさん、いくらなんでも二人じゃ食べきれないよー？」
「わ、わかってるよ。今、どうすっか考えてるから、なつくんもなんか考えてよっ！」
「うーん。かーちゃんなら、呼んだら食べに来てくれるかな……。でも、今日はゲームで忙しいんだっけ――」
　と、そのとき、なつの家のインターフォンが鳴った。

　　　＊　＊　＊

　その少し前のこと。

「ふ、ふふ……。これでまたねこモンマスターに一歩近づいたぞ……！」
　公園で、ねこモンを乱獲していた千歳飴楓子は、ひとしきりねこモンをゲットし、やりきった感のある息を吐いた。
「君はねこモントレーナーの素質があるよ、ふふ」
「そうか。いや、それほどでもないぞ、ふふ」
　怪しく微笑み合いつつ、ふとそこで楓子は思い出した。
（あ、そういえばこいつ鬼だったな。一応、退治とかしとかないとマズいか……）
　さて、どうすれば退治できるかと考えた末――
（……鬼退治といえば豆。つまり、豆を食わせる？　ふむ。なら、なつ氏の家に行けばなんとかなるだろ）

「――おい、赤鬼氏。じつは近所に秘密のモンスター出現場所があるんだが、どうだ？」

　と、楓子は赤鬼にそう誘いをかけたのだった。

　　　＊　＊　＊

　そして、
「まもる。ちょっと手が離せないから、代わりに出てくれる？」
「え？　ああ……」
　なつに頼まれて、玄関の扉を開けた衛は――

「え？　楓くん？　って、あー、さっきのも！？」

　玄関の扉を開けた先に立っていた赤鬼と楓子の姿に驚きの声をあげた。

「む？　なんだ、二人とも知り合いだったのか？」
「……いや？　僕は初対面のはずだけど……」
　二人の顔を見比べる楓子に、衛の顔を見て、首を傾げる赤鬼。
「んー？　なんだか随分と楽しそうだけど、いったい誰が……って、あれ、かーちゃん？　それに例の歩きスマホくんも、ちょうどよかった。豆料理食べてってよー」
「うむ。なつ氏ならきっとそう言ってくれるだろうと思っていたぞ。というわけだ。せっかくの厚意だ、頂いていくぞ」
「え……？　豆？　……いや、うん。そうだな。是非、頂いていくよ。……その方が手っ取り早く帰れるしね」
「え……？」
　衛は赤鬼が最後にぽつりと言った台詞が、妙に心にひっかかった。
「ほら、まもるー。なにしてんのー。みんなで『いただきます』するよー」
「お、おうっ」
　衛は、なつに促されて、慌ててテーブルについた。
　彼もまた腹が減っていたのだ。
　そして、
「それじゃーみんな、席についたところでー」

「「「「いただきます」」」」

　彼らはいただきますの挨拶をして、一斉に夕食を食べ始めた。

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