歌う？踊る？　エンタメやってみた！｜リアクション

歌う？踊る？　エンタメやってみた！

即興ライブ！とりあえず☆にゃにゃにゃにゃにゃにゃーん♪

　居住地不明のフーテン女獅子島市子が、寝子島に戻ってきた。
　シーサイドタウンをぶらついていると、知った顔があるビルから出てくるのが見えた。
（お、カワウソ）
　とは武道のことだ。こちらは挨拶しなかったものの、彼の方はすぐに気づいて「市子さん！」と気さくに挨拶してくる。市子はそんな彼の横から建物の看板を覗き込んだ。
「なんだここー、レンタルスタジオ？」
「愛しのマイブラザーと体験レッスンしてきたところデッス☆」
「ふーん、あたしもちょっくら覗いてみっか」
　志波兄弟に軽く手を振って、市子はビルに吸い込まれていった。
（ダンス、音楽……他にもいろいろやってんね。……ステージか）
　なんとなく良さそう、と思って訪れてみたその場所で、またも市子の知った顔が登場した。

「さあ、盛り上がっていくよーっ」
　ボディが真っ赤なストラトのネックを握りながら壇上に上がった凛は、市子の顔を見て「お？」と声を漏らした。
「ハチワレさん！？　お久しぶりです……！」
　挨拶の声を聞くか聞かないかで、市子は動き出していた。遠くから眺めて、大人しくしているつもりだったのに、凛の存在で衝動が突き上げてきたのだ。
「ワリ。ちょい貸して」
　ステージ脇でスタッフが持っていた右用のギターを拝借すると、会場の全てが面食らう中で堂々と——言うよりのらりくらりと凛の隣に立つ。
「よ」
　驚いている凛に片手を上げるだけの適当な挨拶をして、客席を向く。
「そーゆーこった。　——おっ始めんよ」
　その言葉だけで凛は満足し、面白いことになってきたと唇でUを描いた。
（ステージにギタリストが2人、こうなったらやることは1つしかないですよねっ！
　さぁ、アツいセッション、いっちょ演りましょうよ！）
　様子を伺っているスタッフに目配せして、凛は激しい音を奏でる。市子は戸惑うことなくその音に追従した。
　凛は歌い出す。
『猫がいる！　銀鼠色のタキシード
　こう言うとややっこしいね　無愛想しれっとシニカル上等
　いつダレどこナニどうしたって神出鬼没』

『本当に猫？　だってそいつ喋るんだろ
　ほら「猫じゃ猫じゃ」なんだ猫か　なにせお空から女子高生がfall
　そんなご時勢　固いこと言ったって後の祭り』
　
　——ハチワレさんが来た！　凛は嬉しくなってテンポを上げた。
『ヘンなフツウ　たまには素直になってください』
『もう普通　じゃれなくてもいいけどめんどくさい』
『可愛げもない』
『猫なのに』
　テニスや卓球で打ち合いするようにテンポが良い二人の歌だったが、ここで観客が驚く歌詞が続いた。凛がにひっと市子を見た。
『ところで……　次どうするか考えてる？』
『そろそろネタ切れ　ヤバいどうする？』
　市子はブレイク代わりに猫の鳴き声のような音をギターで鳴らして誤魔化して、でもそれが良い感じだと笑顔の目配せをして、二人一緒に客席を向いて声を揃えた。

『とりあえず　にゃにゃにゃにゃにゃにゃーん』

『困ったときは鳴いておきましょ』
『こともなし』
　セオリー通りじゃーんと鳴らせば曲の終了だ。
　歓声と拍手の中で二人はハイタッチをした。
　好き勝手なのに息ぴったり。練習も打ち合わせもしていないのに、最高の演奏だった。
「ありがとー！」
　凛が笑顔を振りまく中で、正反対に市子が棒読みで「どーもニャー」と挨拶。すると、会場は更に盛り上がった。

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