歌う？踊る？　エンタメやってみた！｜リアクション

歌う？踊る？　エンタメやってみた！

　２月の頭に入って、中学受験戦争はいよいよ大詰めのシーズン。
　私立の試験などが始まり、水上桜が受験予定の寝子島高校の試験日も、目と鼻の先のこの日。
　桜はレンタルスタジオの一室にいた。
「ヤバい……受験まであと２週間なのに、なぜ別なことをしたがるのよ……」
「受験？」
　講師のオジさんに聞かれ、桜は「あははー」と笑って誤魔化して足元を見つめた。見慣れないペダルが眼に映る。
（苦手科目で散々苦しんで、やっと解決法に近いものが見いだせたかと思ったら、今度は現実逃避。
　……何考えてんのよ）
　思わず自分に突っ込んでしまう。
　今ひとつ勉強が身に入らないからって、勉強とは別のことをしたくて堪らなくなったからって、こんなところまできてしまうとは。
　きっと竹高に貰ったチラシを、机に置いていたのがいけないのだ。あれが目に入ったからいけないのだ。
　——音楽体験レッスンかぁ、そう言えば軽音部の顧問の先生にアクセサリー頼まれて作ったこととか、その時に楽器を見たりとかしたけど自分で触ったことはないなー、ギターもやってみたいけど今は気分は思いっきりドラムを叩いてみたいなーとかかんとか。
（一度試してみるのも悪くないってそれは、今日じゃなければ！　試験前じゃなければの話よ！）

「——じゃあ今のやり方で、８ビートやってみようか！」
「いきます」桜は真顔で現実に戻って、スティックを動かし始めた。
　しかし……、はたから見るとドンドンガシャガシャ気持ちよさそうな楽器だが、実際に叩いてみると地味に疲れる楽器だ。
（意外に難しい。リズムキープが結構きつい！）
「拍意識してー」
「ハイ！」
「いいねいいねぇ。でも眉寄ってるよー」
　講師に指摘されて桜の負けん気に火がついた。そこからは一心不乱にレッスンに打ち込んでいく。
　桜の様子を見ながら、講師は体験レッスン用の音楽をかけた。
「合わせると楽しいよ」
　そう言われた通り、頭の中を占めていたものが全てバカバカしく思える程に楽しかった。
　ただの淡々としたリズムが、音楽になるゾクゾクした悦びを感じて、桜の顔いっぱいに笑顔が浮かんだ。
（音を奏でるのがこんなに気持ちがいいなんて思わなかった！）