もしもストーリー｜リアクション

もしもストーリー

　夜の街を酔っ払いが寄り集まって闊歩する。若者が路上に座って下卑た話で盛り上がっていた。
　黒いコートに身を包んだ朝鳥さゆるは街の喧騒の只中にいた。どこか世捨て人のような風情でふらりふらりと歩を進める。目に付いた路地に入り、いじけた缶を蹴飛ばし、明滅する埃っぽい明かりの中を彷徨った。
「もう、どうでもいいわ」
　薄汚れた壁の先に扉があった。さゆるは立ち止まり、一瞥をくれた。
　――二人を引き離した、あの扉に似てるけど、違うわね。
　一歩、二歩と進んで振り返る。さゆるの目が驚愕に見開かれ、扉に駆け寄った。心なしか身体が震えていた。両腕で自身を抱き締めると服装に目がいった。シンプルなフォーマルドレスを着ていた。
「どうして、まさか、本当にこの扉の先には――」
　さゆるの身体が大きく震えた。歓喜に近い表情で扉を開け放つ。一気に凶悪な音が溢れ出した。酒瓶が割れ、怒号が飛び交う。騒動の中心にいる人物は若い男であった。狼のような犬歯を剥き出しにして荒れ狂う者達を拳で打ちのめす。
「あたし、戻ってきたよ、藍人！」
　若い男、片篠藍人（かたしの・あいと）は片方の唇を捲り上げる。凄味のある笑みを浮かべて、酒瓶を振り上げた金髪の顎を蹴り上げた。砕けた歯が血と共に吐き出され、床に背中から倒れた。
　次の瞬間、別の男の拳が藍人の頬を捉えた。よろけることなく反撃に転じ、相手の鼻頭に肘を捻じ込んだ。
　さゆるは焦りを呑み込み、状況の把握に努めた。そこに男達が走り寄る。濁った眼に好色そうな笑みを張り付けている。手にはスタンガンを持っていた。
　あからさまな悪意にさゆるのろっこんが発動した。『Stella cadente』で反応速度が著しく強化され、スタンガンを上体だけで躱し、同時に相手の手首を捻って奪い取る。瞬く間に襲い掛かってきた数人の男が糸の切れたマリオネットのように頽れた。
　さゆるは藍人の元へと急いだ。その過程で何人かがスタンガンの餌食となった。
　二人は共闘する形で暴力に敢然と立ち向かう。少なくない傷を全身に受けて、互いに背を預ける。合わせた背中越しに相手の窮地が伝わった。
　さゆるはスタンガンで一人を気絶させた。直後、藍人の首に腕を回して強引に唇を奪う。
　離れようとした瞬間、今度は藍人に唇を吸われた。
「続きはベッドの上だ」
　藍人は血に塗れた犬歯を見せて、数人の男達に雄叫びを上げて突っ込んでいった。
　さゆるは離れる背中を目で追い掛ける。一瞬の隙が生まれた。鈍い音を頭頂で聞いて気が遠くなった。

「ここは？」
　さゆるは目を瞬く。目の前の扉はどこか余所余所しい。服装に目をやると、元の黒いコート姿に戻っていた。
「あれは、夢の出来事？」
　戸惑う表情のあと、さゆるはコートのポケットに両手を突っ込んで歩き出す。少し前傾の姿勢で、瞬時に立ち止まる。扉の方に振り返ると口の端で微かに笑った。
「ベッドの続きを、待っているわ」
　踵を返して、その場を離れた。二度と振り返ることはなく、街の喧騒の中に溶け込んでいった。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
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もしもストーリーはいかがでしたでしょうか。
満足のいくリアクションになっていたでしょうか。

ろっこんに関わる話は、なるほど、と思いながら書き進めました。
アクションの修正には、そうでした、と過去を振り返って気持ちを新たにしました。
そんなことが、と驚きつつ、頭を悩ませる場面もあって私自身が楽しんで書けました。

参加された皆様のおかげです。ありがとうございました。

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