もしもストーリー｜リアクション

もしもストーリー

　夕食を済ませた八神修は早々と自室に戻った。机に向かって残りの課題に取り掛かる。詰まることなく解答欄を埋めていった。最後の問題は数秒の黙考を挟んだ。
　修は顔を上げた。全ての解答欄を答えで埋めた。詰まらなそうに眺めたあと、手近のボールペンを手に取った。
　一瞬、真剣な目となる。ほぼ同時に息を止めて『分解』のろっこんを発動した。急に朽ち果てるようにボールペンは部位となって零れ落ちた。
　バラバラの惨状を検証するような目で見る。瞼を閉じて軽く息を吐いた。
　――最初の時は驚いたものだが。
　目を開けた瞬間、訝しげな表情となる。机の上には精密機械のような部品が分解されていた。猫の耳のような物体に目がいく。
「時間が、巻き戻ったのか」
　落ち着いた目で状況と向き合う。
　――瞼を閉じて息を吐いた。それが切っ掛けか。その意味を考えるには材料が足りない。色々と試す必要があるだろう。
　修は分解された部品に手を当てた。意識を集中して息を止める。ろっこんは発動した。猫型ロボットは分解される前の姿に戻った。
「分解ではなくて、これは『修復』か」
　修は冷静に受け止めて瞼を閉じて息を吐いた。
　猫型ロボットに変化は見られない。手を当ててろっこんを発動。すると取り付けた部品が一つずつ外れていく。その順番に目を見張る。
「時間の『巻き戻し』か」
　修は口元に笑みを浮かべる。科学者が実験を行うように淡々と続けた。
　猫型ロボットに仮初の命が吹き込まれた。自発的に動き出す。修は『偶像操作』と命名した。
　完成した猫型ロボットを増やした。同じ物が机の上に犇めく。そのろっこんは『複製』と名付けられた。
　最後に自身のろっこんの『分解』を行使した。結果を目にしたあと、瞼を閉じた。
　――色々なろっこんを試してみたが、やはり『分解』が俺には合っている。何故なのか。破壊願望を危惧したが、その兆候は見られない。
　ろっこんが進化した、あの出来事も関係しているのだろうか。
　手を触れなくても岩壁を分解することができた。偶然なのか。生まれ持った資質。それとも状況に左右されるのか。
　何人かの友人もろっこんが進化した。必要に迫られ、やがて、そこに意志が宿る。進化が段階を踏んでいることは間違いない。
　修は目を開けた。ボールペンが分解された状態で放置されていた。目に付いた他のボールペンを片っ端からろっこんで分解した。
　それらの部品を使って宙に文字を作った。『蒼い、碧い、あおい』と作って崩した。空中に見えない台があるかのように一個を静止させる。その上に別の部品を積み上げた。
　修は椅子から立ち上がって右腕を掲げた。分散した部品が引き寄せられ、瞬時に崩れ落ちた。
「盾の形状を維持するのは難しいか」
　気持ちを入れ替えて一つの部品を宙に浮かせた。厳しい表情で真横に動かす。その先には細長い花瓶があり、ぶつけると軽い音が響いた。
「倒す威力はないが、応用範囲は広いな」
　修は満足げに笑う。
　――何故、俺のろっこんは『分解』なのか。その思考は適切ではない。俺だから『分解』のろっこんを得られたと考えればいい。
　思考を巡らせる行為は性に合っている。ろっこんの進化は俺の成長の証だ。将来の可能性を広げる役にも立つだろう。
　柔軟な発想でどのようなことも可能に思える。善と悪、どちらにも傾く。
「どう使うかは俺次第だ」
　修は最上の笑みを浮かべた。

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