地獄めぐリゾート　in 魔界｜リアクション

地獄めぐリゾート　in 魔界

■修羅

「地獄？　ああ、俺が死んだら行きつくのはそこだろうさ……」
　御剣刀は呟いた。
　周囲は赤黒い等活地獄。
　刀の合わさる金属音、悲鳴、血の匂い……それらを肌で感じながら、刀は日本刀を振りかざし叫ぶ。
「上等、予行練習してやろうじゃねえか！」
　襲い掛かってくる亡者に鋭い眼光を向け、ためらわず切り捨てる。
　ただひたすら積み上げてきた修行は、考える間もなく体を反応させるためのもの。
　相手が鬼だろうが亡者だろうが、生きた人間だろうが知ったことではない。
　あるいは知った顔もいたかもしれない、それでも斬ることをやめない。
　もはや業だった。
　吹き上がる血しぶきが刀の体を染める。
　身体に染みついて消える事のない罪を別の罪で覆い隠そうとするがごとく、さらに斬る。
　当然刀も万能ではない、斬られ倒れる。
　だが気が付けば蘇っていて再び刀を振るっていく。
　何度も斬り、何度も斬られ、気が遠くなるほど何度も何度も。
　身体に走る痛みは常に新鮮で慣れる事がない、それを相手に叩きつける様に刀を振るう。
　その後ろから同じように刃を振り下ろされて、お返しとばかりにそいつを刀で突き刺す。
　時には刀を抜く前に頭を潰されて……それでも気が付けば蘇って立っている。

　まさに地獄、正に修羅。
　さっきからどれぐらい時間が経ったのか、もう刀は思い出すことができなかった。
　終わりのない殺し合い、気が狂いそうになる痛み。
　その中にあっても相手を斬り殺そうとただ刀を振るっている。
　このまま斬り続ければ、もう自分が誰なのかも忘れてしまうのかも知れなかった。
　刀はもしかしたら笑っているのかもしれない。
（ああ、ここは痛くて苦しいけれどもそれでも楽しいと感じている自分が確かにいる）
　善悪など構わない。自分は斬るためにここにいる。
「だからもっともっと殺し合うんだよ！」
　と前に出ようとした瞬間。
　
　ふと頭を二人の女の子の顔がよぎった。
　自分のほうを見て……悲しそうな顔で。
　泣いているような気がした。
「……止めた、帰る」
　刀は退いた。
　斬り合いに背を向け走り出した。
　早く帰って二人の笑顔が見たい。
（泣くなよ……ちゃんと帰るから）