「ほんと……すごく、綺麗だ」
まだ覚束ない手つきながら櫂を操るアカリも、思わず息を呑むほどの光景だ。
「藍川、手始めに一曲弾けよ」
クラ同の先輩で尊敬するヴァイオリニストでもある征一郎にそう促された慶介が、演奏会最初の曲としてドビュッシーの『海』を演奏した。
De l'aube à midi sur la mer ――海の夜明けから真昼まで、と題された第一楽章は、今宵の穏やかな海を謳っているかのようで、この音楽会の始まりには如何にもふさわしい。
征一郎がヴァイオリンを構え、慶介の音に伴奏する。
慶介本人は気づいていなかったが、慶介のろっこん<希望の音色>が発動していた。
慶介の音色が自分を含め水上音楽団のみんなに自信を持たせ、ポジティブな気持ちにさせてゆく。
一曲弾き終えた頃には、誰もが次の演奏をしたくてうずうずしてた。