積もるハナシをしましょうか｜リアクション

積もるハナシをしましょうか

　その日、志波武道はいつもの道を辿って、愛しい我が家となった下宿先へ帰った。下宿先の夫婦へ元気よく挨拶をして部屋の扉を開け——、
「おとーさんナンデココニ！？」
　驚きの声を上げた。

「えー……、ここが通学路デス」
「見れば分かる」
　ですよね。たははと笑う武道の隣を歩くのは、志波格、武道の父だった。
　小麦色の顔には厳格な一文字をひき、組んだ腕はスーツ姿でもはっきり分かる筋肉質。総合的に威圧的な外見で、武道の笑顔が若干引きつっているのも推して知るべしである。
（せめて弟かおかーさんが一緒なら話しやすいんだけど二人きりは……）
　そう思いつつも、それを口に出しては関係が悪化するのは目に見えている。なんとかいつも通りを取り繕おうとするものの、道化のように笑ってみせるたびに溜息が横に聞こえた。
　やはり父にはマイペース戦法が効かない。武道は喋りに逃げた。
「——まぁ色々何とかやってるよー、編入でここに来ることを選択したのは俺自身だし。
　一応、そういったからにはやれることは頑張ってるけどね。下宿先も自分で探したし、学力水準も何とか保ってる。
　成績表みたデショ？」
　怒涛の如く喋ってみても、返って来るのは一言二言だ。……これはやり辛いぞ……。
「もすこし俺への仕送りが増えるとうれしいなーナンテはいごめんなさいなんでもないデッス☆」
　仁王のような顔を向けられて、巫山戯た笑顔に冷や汗が浮かんだ。
「それよりも少しは家に連絡しろ」
「してまっす！」
　直後。武道は普段のテンションで敬礼した事を一瞬にして後悔したが、笑顔はやめなかった。
　アルバイト先の前まできて「なにか飲んでいく？　おとーさんのおごりで！」とジョークを飛ばした時は、同じように怒られるのではと思ったのだが、意外な事に父は提案をのんでくれた。
　不気味な程の外面の良さを見せた店の兄弟が呼んできた店主と父の大人の挨拶を、口も挟めずぼんやり聞いていると、改めて自分が子供だと思い知らされる思いだった。

「——今度来る時は前以て連絡して欲しいでっす！」
　それじゃあと手を振って、駅の中へ吸い込まれる父を見送った。年の割に黒々とした後頭部が見えなくなると、武道の口から盛大な溜息が溢れた。
（……うーん、二人っきりはやっぱちょっと苦手。怖いしねぇ……）
　使命を果たした後の苦笑が浮かんだ時、端末がメールの受信を告げた。
「あれ？」
　別れたばかりの父親からだ。
　開いてみると、硬い文章で叱りと心配、叱咤激励が綴られていた。そこそこ長い文章を打つ苦労を考えた時、父親の想いを知って口元が緩んだ。

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