猫、逃げる｜リアクション

猫、逃げる

　恵御納夏朝がその話題を知ったのも、ねこったーだった。

「黒い招き猫の像……か」
　叶ったら嬉しい願いはあるけど。
「姿が、見られるだけでも嬉しい……かな？」

　『可愛い猫さんと会えたらいいな』というのも、願い事と言えば願い事だったから。

　そんな夏朝であったが、せっかくなので探してみようと思い立ち、まずとりかかったのが、猫おやつと猫じゃらしの確保だった。
　袋に幾ばくかのおやつを投げ込み、供艪寝子寺周辺の路地へ探しに向かう。

　くろねこ寺……猫さんみたいで、なんだかかわいい！　等と一人わくわくしながら向かう先。墓地は訪れたことがあれど、近くの寺々を訪れる用などありはしなかった。初めての、それまで知らなかった場所がまだまだいっぱいある、そういう部分に、心のどこかが反応していたのかもしれなかった。

「像を保管しているときの状況も気になるけど……誰か行ってるかもだし、後回し後回し」
　うん、と肯くと、近くの猫さんたちへ、猫じゃらしを示しながら、声をかけていく。

「あそこのお寺の黒猫さんをしりませんかー？」

　そんなことをしているうちに、知った声が背中からかかる。
「恵御納さん？」
「あ、神野さん――どうしたの？」

　振り返ると、野良猫を抱き上げたところだったらしい、クラスメイトの姿。
「恵御納さんも、黒猫探し？」
「あ、神野さん、も……？」

　そうなのよ。そう言って手持ちの道具を示す神野の様子に、恵御納は少しうれしくなって、笑った。
「一緒に探す？」
「うん、お願いして……いいかな？」
「もちろんよ」