猫、逃げる｜リアクション

猫、逃げる

「像の由来、ねぇ……」
「ええ、できれば仏師のこともわからないかな、と。本当に像が動き出していなくなったとしたら――ひょっとして、縁のある場所や、相手を探し求めてなのでは、そう思いまして」

　腕の中で小さく転がっては伸びるタイガ、その様子にがおーを頭に乗せながらも完全に篭絡されている真央を横において、八神は住職へ問うた。

「ふーむ……寺の縁起は聞いていますが、いつ頃からの、どんな像かというのは中々。あぁけれど、先代からは、平安時代の末期ぐらいかなぁ。禅宗や臨済宗やらに押されて流れてきた坊さんが彫ったのが、今のご本尊だそうで……そん時に、何故か一緒に祀られるようになったらしい、ってくらいだなぁ」

　婆珊婆演底主夜神と正式には呼ばれるこの本尊が伝わったのは、本来ならばもうしばらく後の時代と言われているらしいが、何故かこの寺にはおおよそ千年近く前から祀られていたらしいことも、住職は合わせて教えてくれる。

「別のお寺さんが最初に伝来したって言われているから、これもどこまで本当の話か分からないんだけどね」
「千年前、ですか……。像は巨大な杉の木で彫られているんですよね？」
「何か思いついたのだ？」
　がおーとタイガの二匹と横でじゃれあっていた真央が、八神へ問いかける。

「そうすると、長い年月を経た杉の木か、この仏像さんや猫さんを彫った仏師の墓所なんかがあやしいのかな、って」
「それならやっぱり千年杉だと思うのだ！　千年前からあるのは千年杉なのだ。他の場所が分からないなら、ひとまずは千年杉行ってみればいいと思うのだ」
「……うん、そうしよっか」
　しばし考え込んでいた八神も同意する。現状、それ以上の手がかりはなさそうだった。

「今日は走り足りなかったからちょうどいいのだ、陸上部はロード走ってナンボなのだ♪」
「あ、ちょっと待ってって、真央！」
　がおーを抱えて走り出す真央と、慌てて自転車で追いかけようとする八神。
　そんな二人の後ろ姿を見ながら、住職はやれやれ、と一息をついた。

「大丈夫だろうかね、あんなんで……」
　早くも自分の眼力を疑い始めた、切ない呟きが堂内に溶けて消えた。

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