おしゃれ日和｜リアクション

おしゃれ日和

☆美容院へ行こう

　五十嵐先生のボサボサ過ぎる髪型についての議論は、他のクラスにも飛び火しました。
　御巫時子は大好きな先生の噂につい耳を傾け考えました。
（尚輝先生って髪を伸ばされてないところをみると定期的に髪を切りに行かれてるんですよね？）
　とはいえ、毎日髪の長さが変わる様子はありません。
　特に顔を覆う前髪は、どんなに見つめても奥の目をしっかりガードしています。
（前髪が長いのは先生の希望？　落ち着くのでしょうか？）
　とても気になりますが、時子はふと自分の三つ編みに触れてみました。
（私ももうそろそろ髪を切りに行かないといけませんね。少し伸びてきたみたいですし）
　時子は、噂を聞いたガット・ビアンコに行ってみることにしました。

「ここですね……」
　キャットロードのすぐのそばの通りに、白塗り立方体のモダンな建物がありました。
　『美容室＆理容室Gatto Bianco』という看板が出ています。
「いらっしゃいませー！『Gatto Bianco』へようこそ！」
　元気な声に迎えられて入ってみると、そこは白を基調とした待合室でした。
「今日はどうなさいますか？」
「カットとシャンプーをお願いします……。腕の良い美容師さんがおられると聞いたので」
「かしこまりました。待ち時間にプチマッサージはいかがですか？　頭、顔、耳、肩、足、お好きなところを」
「……では、足でお願いします」
　女性の店員さんに優しくプチマッサージを受けて、少し楽になったかも、と思った頃、左側の部屋から呼ばれました。
　なかなかイケメンな美容師さんに席に案内されます。
「お待たせしました。店長の平野（へいや）です。さらさらで艶やかな黒髪ですね。どのくらいお切りしましょうか」
「５センチほど切って揃えてもらいたいです……小さい頃から短く切ったことが無いのでショートカットは興味はありますが……」
　前に置かれたタブレット端末でヘアカタログを見ながら時子は言います。
「私はどんな髪型が似合うでしょうか？　参考にさせていただきたいです」
　説明されて写真を撮ると、時子の顔にさまざまな髪型を合わせることができました。
　ポニーテール、ツインテール、ショートカット、パーマ……
　確かに自分の顔なのに、不思議な感じです。
「……私じゃないみたいですね」
「どれもお似合いですが、色はそのままの黒でお願いしたいですね。今は綺麗な黒髪は貴重ですから」
　話しながら、平野さんは大きな手で手際よく、そして丁寧に髪をカットしていきました。
　たちまちカットが終わり、シャンプーが始まりました。
「熱くないですか？」
「はい……」
　顔に紙をかけられ目を閉じていると、お湯の温かさとマッサージが心地よくて。
（気持ちが良いと眠くなっちゃいます）
　うとうと寝てしまう時子でした。　
「かゆいところございませんか？」
「はい……」
　平野さんの声に夢うつつで返事をします。
　
　視界が明るくなり、時子は目を覚ましました。
「おつかれさまでした。ドライヤーで乾かしますね」
　ドライヤーをかけられながらも、眠くなってしまいます。
「こんな感じですが、大丈夫ですか？」
　合わせ鏡で頭の後ろ側も見せてもらいます。
「はい。５センチですが切るとすっきりしますね」
「炭酸パック、顔パック、お顔剃りのプチエステはいかがですか？」　
「プチエステも惹かれますが……次の楽しみにしておきましょう」　
「はい、それではおつかれさまでした」
「有り難う御座いました……」
（居心地が良かったのでまた来たいです）
　会計をしながら時子は思います。
（今度、尚輝先生にもお教えしたいですね）　
　尚輝先生がヘアカタログのシミュレーションをしたらどんな感じになるのだろう、ととても気になる時子でした。　

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