おしゃれ日和｜リアクション

おしゃれ日和

☆オトナ女子のおしゃれ

「う～ん、最近おしゃれしてないなぁ。仕事が楽しくて忙しかったから」
　椎野久恵は、アンティークの貿易会社の新米OLです。
　平凡な外見の眼鏡女子である久恵。
　普段の私服は地味だけれど、別におしゃれに興味がないわけではないのです。
　今の仕事は美術関係のお客様もたくさんいるから仕事用は手を抜けません。
（大学時代は西洋美術史専攻だったんだし……まあ、ロココとかゴシックとかのドレスを普段着にするわけにもいかないけど）
　寝子高の卒業生である久恵は、木天蓼大学時代に西洋美術史を学んだのでした。
（もうすぐ25歳だから、仕事用以外で、もうちょっと大人っぽい服も持っておいた方がいいのかな）　
　そんなわけで久恵はシーサイドタウンに買い物に出てきたのでした。
　気弱で常におどおどしている久恵は、人込みは苦手です。
　何がおかしいのかキャッキャと楽しそうな若い女の子たちの姿が眩しく映りました。
　ふと、久恵は気づきました。
（あれっ、四捨五入したら私、今年で３０代！？　……やだなぁ）
　ついため息が出てしまいます。
（やっぱり、なるべく若めの服にする！）
　あの子たちと同じような服装はもう似合わないのだ、と心のどこかで思いつつも。

「プリーツスカートにぴったりめのトップス、これなら無難かな……」
　けれど、可愛い柄のセーターも目に留まります。
（大人っぽくはないかもしれないけど、コーデによってはこれだって……）
　デートには可愛いかも、などと思ったりします。
　彼氏なんてずっといないし出かける予定も特にないけれど。
（だからっておしゃれ心を忘れたら、女の子はおしまいだもんね！）
　服とか小物類を買って、メイクも揃えて。
（そうだ、これに合わせて髪も切ろう）
　気がつけばボブカットの髪が大分伸びてきてしまっていました。
（上手な美容師さんがいるって噂の、美容院エトワールに行ってみよう）
　思い切って電話してみると、幸い予約を取ることができました。

　キャットロードの『美容室・エトワール』は、掃き清められておりとても居心地が良い場所でした。
　他にスタッフの姿は見えず、店長一人で切り盛りしている様子です。
「あと３０分位で終わるからん。ソコでヘアカタログ見てイメージ膨らませときなさぁいん♪」
　店主の木野星太郎は、178cmの大柄な男性ですが、綺麗なウェーブの長髪をして女性口調です。
　まつげが長く肌も綺麗、身のこなしも女らしいのです。
「は、はい……」
　女子力で負けそう……と圧倒されながら、久恵はヘアカタログを開くのでした。
「お待たせえ！　さあ、どうぞ。さぁてん、今日はどんな風になりたいのかしらん？」
　３０分後、気後れしつつ鏡の前の椅子に座った久恵は、おどおどしながら開いたヘアカタログを指さしました。
「あの……こんな感じで、お願いします」
「ふーん。ちょっと髪さわらせてもらうわよん♪」
　そう言うと星太郎は髪質の確認を始めました。
　ヘアカタログを見せながら説明します。
「アンタのつむじはこっちにあるから、反対側のこの辺りに髪の毛が集中するみたいねぇん♪　そうすると、このヘアカタログの髪型よりこっちの方がイメージ近くなるわねぇん♪」
「そ、それじゃ、そっちでお願いします……」
　相変わらずおどおどした様子の久恵に、星太郎は言いました。
「アンタもっと自分に自信を持ちなさいよ。若いのにモッタイナイわよん」
「自信……ですか」
「そうよ、そんな風に背中丸めてちゃだめよお。おばあちゃんみたいでモッタイナイわあ」
「はい……」
　意識して背筋を伸ばした久恵を星太郎は褒めます。
「そうそう♪　ぐっと美人になったわあ♪　それじゃ始めるわよん」
　みるみるうちに自分の髪が、ヘアカタログ以上にオトナ女子の可愛さを引き立てるスタイルに変わっていくのを、久恵は魔法を見るような思いで眺めていました。
「これだと、メイクも明るくハイライト入れたほうがいいわよ。肌になじみやすいピンクやベージュ系の色を選んで、パウダータイプだと全体のバランスを見ながら仕上げられるわよ。入れる位置は……」
　手取り足取りと言った感じで、星太郎は丁寧に説明してくれます。　
「はい、これでおしまいよん♪　後は自分に自信を持って行ってらっしゃいな」

　浮き立つ気分で、久恵は美容室エトワールを後にしました。
（私だってまだまだ女の子！　少女まんがとか恋愛小説の世界と精神を忘れちゃいけないわ！）

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