黄色のファレノプシス｜リアクション

黄色のファレノプシス

【黄色の土曜日】

　寝子高の体育館はその日少し賑やかだった。
　寝子高女子バスケットボール部が他校との練習試合を行っていたのだ。
　
　試合中、羽生碧南は相手チームから徹底的にマークされ動き辛い状況にあった。
　しかし、碧南はそういう逆境こそ燃える性格。
故に虎視眈々とマークを振り切るタイミングを見計らっていた。

（今だ……！）

　一瞬の隙をついてマークを振り切り、大胆にダンクシュートを決める。
　縦横無尽にコート上を駆け、同じようにダンクを決めること四連発。

（なんだろう……今日は体が軽い感じがする！）

　いつになく調子が良いことを感じながら汗を拭う際、目に入ったのは黄色いリストバンド。
　黄色いものを身に着けると幸運になれると聞いて、練習試合の前に早速身に着けたものだ。
　まさかと思いつつも、運試し感覚でスリーポイントエリアに立つ。
　いつになく綺麗なフォームから放たれたボールは、まるで吸い込まれるようにゴールの中へと消えていった。
　結局、寝子高とほぼ同レベルの学校との試合だったにも関わらず結果は寝子高の圧勝。
　チームメイトが凄い凄いと碧南を持て囃し、碧南ははにかみながら黄色いリストバンドを見せつけた。

「これのお陰かもしれないわ」

　所変わってシーサイドタウンのとある雑貨屋。

　銀髪に赤い瞳が印象に残る中性的な少年、サキリ・デイジーカッターが一振りのナイフを手に取っていた。
　柄も鞘も黄色い木材で出来ていて、刀身には不思議な模様が刻まれている。
　サキリがナイフをじっと見つめていると、横から不意に声がかけられる。

「おや、それはアミュレットかな」
「アミュレット……？」

　サキリが振り向くと、横に立っていたのは長身の美丈夫だ。
　流暢な日本語を喋っているのに、肌の色や体格が日本人離れしていてエキゾチックな印象を受ける。

「日本で言うところのお守りさ。魔除けだったり、幸運を呼び込む道具だね。刃物としては実用的じゃないものも多いんだけれど」
「成程」

　実用的じゃないものが多いとは聞いたが、サキリは自分の手にしているこのナイフが実用にも足りうる本格的で、しっかりとしたつくりであることが分かった。
　刃物に慣れ親しんでいるサキリの目と直感に狂いはない。

（最近黄色が流行っているとは知っていたが、こんなものまであるんだな）

　まるで流行に合わせて自分用に特別に誂えたようなアイテムのようだとサキリは思った。
　衝動的に欲しくなるが、一点物らしくなかなかに良い値段だ。

「量産品と違って一点物は機を逃したら二度と拝めないかもねぇ」

　悩むサキリの横で男がにやりと笑って背中を押すようなことを言う。
　これを買うとサキリは今月相当なピンチに陥る。

（だが……買おう）

　真剣に考えた末に決断を下したサキリ。その背中を男はにこやかに見つめていた。

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