黄色のファレノプシス｜リアクション

黄色のファレノプシス

【黄色の金曜日】

　椿美咲紀の朝には欠かせないものがある。
　それはテレビの朝の占いコーナー。

「ふむふむ、今日のラッキーカラーは黄色なのです。今日は何か良いことありそうなのですよ！」

　美咲紀は黄色い花柄のハンカチをコートのポケットに入れ家を出た。
　車を出して貰っても良いのだが、今日は放課後に色々寄り道もしたかった為寝子電を使うことにする。

（えっと、パスケースは、と……）

　改札前でポケットを探る美咲紀。
　その時ハンカチがポケットから逃げ出してしまった。

「あ」
「っと、危ない」

　ハンカチが地面に落ちてしまう前にキャッチした手があった。
　その浅黒い手の持ち主は美咲紀にハンカチを渡すと美咲紀が礼を述べるより早く「Bonne journee！」と言い残して颯爽と立ち去ってしまった。

（思えば今日はあの時から既にラッキーだったのです！）

　放課後を迎えた美咲紀はこれまでのことを思い返して黄色い花のハンカチを見つめる。
　今日は授業で当てられて困ることも抜きうちテストもなかったのだ。

「平穏万歳！なのです。さぁ、今日はキャットロードで新刊を買わなきゃなのです～」

　美咲紀が喜々としてキャットロードへ向かい始めたその頃。
　結衣月由癒は寝子高近くの手芸店前でじーっとある物を凝視していた。

「……黄色いの……」

　由癒の目が釘付けになっているのは黄色いサテンリボンだった。
　お値段は1mあたり300円。
　そっとがま口財布の中を覗きこむと中身は45円ぽっきり。
　由癒はため息をついてそのリボンは諦めることにした。
　しかしどうしても黄色いものを手に入れることは諦められない。
　髪に挿した黄色い花飾りを揺らしながら、由癒はあてもなく街をさまようことにした。

「黄色いものが福を呼ぶ、か。しかしこうやって身に着ける物の色を変えるのも気分転換になっていいね」

　黄色の眼鏡チェーンに、髪を結うリボンも黄色。
　薄野一月は普段使いのアイテムに黄色を取り入れ、万年筆とメモ帳を胸ポケットに入れてネタ探しの為旧市街の表参商店街へと繰り出していた。
　太陽が頑張っているお陰で1月にしては暖かいが、やはり風は冷たい。
　やや背を丸めて一月が歩いていると、電柱の隅に丸い何かを見つけた。
　気になって近づいてみると、それは風を凌ぐように丸まっている仔猫だった。

「お前さん、一匹でどうしたんだい？　お母さんとはぐれちゃったのかい？」

　抱き上げると仔猫は抵抗することもなく、みーと小さく鳴いた。
　喉や頭を撫でながら観察してみると首輪はつけていない。
　怪我こそしてないものの、やや痩せ気味で、野良猫のようだった。

「きっとお母さんも心配しているだろうから探してやらないとねぇ」

　あたりを見渡してもそれらしき姿はない。
　一月は猫を抱いたまま、親猫を探しに他の場所に足を延ばすことにした。

「あ、そうだ！」

　一歩足を踏み出したところで一月はあることを思いつき足を止めると、自分の髪を結っていたリボンをほどいて仔猫の首に巻く。

「おにーさんがキミに幸運のお裾分けをあげよう！」

　リボンを巻かれて不思議そうな顔をする仔猫の頭を撫でながら、一月は満足げに笑って再び歩きだしたのだった。

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