転：紅蓮は天を焦がし、爪は魂を抉り……。

　翼をもがれたコズエルは、音を立てて地面へと落ちる。彼女は真下に撒かれたマキビシの痛みに呻き、その場に倒れこんだ。
　だが、それは討滅した証拠ではない。彼女は赤い血を流しながらもその緑色の眼を見開く。
『人の子たちよ』
　彼女は呼びかける。その傷ついた体に幾つもの文様を浮かばせて。彼女は微笑む。猫のようになった緑色の眼で。そして、彼女は微笑む。その慈愛に満ちた眼差しのまま、ふっ、と舞い散る花と羽の渦に隠れて。

『極天使の本当の恐ろしさは、ここからですよ？』

　急に周囲からざわざわとなにかを揺する音が聞こえる。よく見れば藤のような蔓や、ぬめりけを帯びた蔦などが周囲に出現する。
『( ´∀｀)』
　最初に動いたのは、着ぐるみさんだった。着ぐるみさんが夜海霧 楓に襲い掛かった蔦を片手斧でばっさばっさと切り落とす。そして、治癒士を襲うとした植物達を回転斬りで吹き飛ばした。
「こっからが本番ってトコか。……上等だ！」
　如月 庚が火遁で植物を燃やし、率先して駆除していく。梢ならばどうするか、彼は『普段の屋敷野 梢』を思い出しながら、放っておいたらジリ貧だな、と呟く。
（ここは慎重にいかないと！）
　白 真白が植物を払いながらも薄野 九月の背後に隠れる。九月は元気な笑顔で壁となりながらも戦斧を振るう。



「状態異常以外に攻撃が多くなると、かばうのが大変だもんね♪」
「そうそう！　恐らくさっきよりも攻めの姿勢でくるだろうし」
　九月と真白がそんな事を言い合いながらも連携すると、夕鈴 翼がやはり胸をたゆん、と躍動させながらナイフを投擲！　２人が落とせなかった部分をきっちり落としている。
　その間にも楓はタロットカードを繰る。詠唱を【迅速】で終わらせ、全体回復施した上で眼鏡をかけなおす。



「コズエルのＨＰもだいぶ削れてきているとみた。ここからが正念場だぜっ！」
「おおっ！」
　努努 天才が楽しげに応じる。彼は戦斧を振るって楓を庇い、ヘイトを稼ぐスキル『将軍の大見得』を発動する。とたんに近くの蝶や植物は彼へと襲い掛かるが、天才は怯まないし動じない。落ち着いた動きで払っていく。
　どうにか回復した日暮 ねむるは「鎧が重いからばてそう」なんてぼやきながらも周囲の様子をきっちりと把握する。
（もうちょいで倒せそうな気がするけど、火力が一気にあがったかな？）
　ねむるが僅かに瞳を細め、盾を地面に突き刺す。そして作成されたディフェンスタレット。これで２人分は守ることが出来る。
（攻撃によっちゃ、ヒーラーさん達が一発で溶ける可能性も出てきたっぽいし、仕方ない）
　彼は回復だけおねがい、と治癒士組に頼み、襲い掛かってくる植物を拳で払う。だが、その動きは普段の動きより鈍い。
「あぁもう！　鎧が重くて速いパンチが出せないよ～っ！　これって重戦士の宿命すかね？」
「仕方ないだろ、そこは」
　卯木 衛が肩を竦め、ぶかぶかの袖から手を出しながら【高揚】を使った上での『鳳凰乱舞』……炎の渦を生み出す範囲攻撃を解き放つ。赤々と燃え上がる鳳凰が襲い掛かる植物と蝶を燃え上がらせて灰にする。
「今まで魔力をセーブしてたんだ。範囲には範囲でどーん、だ！」
　【迅速】で詠唱速度を上げ、燃やし残しに『紅蓮弾』を解き放つ。メキメキと音を立てて燃え上がる植物を見ながら、ＭＰ残量をちらり、と確認。
「これ、飲んでおけ！」
　八神 修が衛へＭＰ回復ポーションを投げ渡し、手元に残った１本をみてにやり、と笑う。



「コズエルも本気モードだな。ならばこっちも、だ！」
　魔導書を捲り、全体回復を発動させる。これ以上仲間を減らしたくは無い。だからこそ、死力を尽すのだ。
「こいつで、耐え切ってくれ！」
　修はそういうなり、魔導書をもう一度捲る。すると、ねむるの足元に魔方陣が浮かびあがり、淡い水色の光が広がる。回復の場所を形成する『聖域作成』のスキルによるものである。
（全体的に疲労が目立ち始めている。ここは一気に行くしか……！）
　修はぐっ、と魔導書を握る手に力を込めた。



「クライマックスだ、上げていこう！」
「ほらほら、宴はこれからだよ！」
　黒兎 都の声と共に、勇ましいメロディーが流れる。攻撃力と移動速度を上げてくれる『進撃のオーバーチュア』を奏で、少し後ろにいた七瀬 璃音が、攻撃力をあげ、ＨＰを自動回復させる魔曲を奏でる。
　２人の歌楽士の魔曲に支えられ、挑戦者たちは体勢を立て直す。御剣 刀と嘉月兎 ネヴィア、サキリ・デイジーカッターが容赦なく植物と蝶を切り払い、次の攻撃に備える。
　しばらくして植物による攻撃が止み、ふっ、と消えたかと思えば、コズエルが再び姿を現した。だが、その背中に翼は無く、痛々しい背中が目立った。
　それでも、浮かべる笑みは暖かいままで、だのに翻った手が繰り出したのは、青白い光の蝶。十字架を形作るソレが狙うのは、タロットを片手に全体回復や状態異常への抵抗力を上げていた楓である。
「そうはさせるかよっ！」
　詠唱を止め、楓は走る。追いかけるように２発目、３発目も襲い掛かるも、そこは天才が楓を押して避難させる。
　隙を突いて、夕鈴 翼がナイフを投げる。硬直して動けない今を狙い、翼は勢いよく接近し、ナイフで切りつける！
「コズエルの弱点、それは……『きょうい』がないっ！」
　コズエルよりもボリュームのあるバストが、攻撃とともにたゆん、と揺れる。うっかり目がいってしまいそうになる者もいたが、そんな事もお構いなし。硬直が解けないうちにもう一度ナイフを振るう。だが、翼が思ったよりも早く強烈な羽根の攻撃が迫った。