歌楽士たちが密かに作戦を練っている間にも、真白がヒット＆アウェイで戦況を把握していた。彼女は防具である疾風のドレスを揺らし、風になったかのような身のこなしで戦っていた。



「こっからが本番だもの。このフェイズから『芳しき黄』を使ってくるし」
　コズエルが『かき乱される紅』を放って硬直した所を果敢に攻め、硬直が解けたのを見計らって一旦下がる。だが、目測を誤り、翼が彼女へと迫っていた。
　そこを助けたのは、碧南。彼女は体力を温存させつつもこうして仲間のピンチを防いでいたのだ
（１人でも、多く残って欲しい）
　コズエルの猛攻により、すでに１人落ちてしまった。それを悔しく思う碧南は、その感情をエネルギーに変えるが如く細やかな攻撃を行う。それを払うコズエルの表情から、「大した事はないが、ちょこまか動く小癪な奴」と思われているらしい。
　コズエルの蹴りを下がってかわし、入れ替わるように飛び出るエスカルゴ。彼の拳が決まり、すぐさま振り下ろされる翼。舌打ち一つでかわし、彼は眼を細める。
　パーティを組んだ仲間が既にリタイアしている。その事実に内心表情を曇らせつつも攻撃の手は休めない。
　次の一手をと拳を握ったとき、コズエルの周囲に色とりどりの花と緑の蝶が舞い始めた。『静寂なる緑』の発動だ。
「緑だっ！　拳闘士は気張れ！　他のジョブはもっとさがって！」
　エスカルゴの言葉は伝わり、残ろうとするネヴィアを庚が引きずって退避。拳闘士たちはみな、『気合』を入れる事で状態異常への抵抗力を高める。
　治癒士トリオがそれぞれ分担して治療を行い、誰一人眠らなかった拳闘士組の中からサキリが虚空を飛んで爪を振るう。背後を取られぬよう、踊るように舞うコズエル相手にサキリは虎のように爪を振るう。最初は慣れないオンラインゲームでの戦闘に多少戸惑ったが、今ではそれも払拭されて嵐のような連撃を放っている。
　コズエルが僅かに表情を険しくし、身を翻す。だが、がら空きとなった背後へと刀が二刀流で切りつける！



「貰ったっ！」
　背後狙いの２人を煩わしく思ったのか、コズエルは翼を広げ２人纏めて吹き飛ばす！
（あぁ、その攻撃受けたかったーっ！）
　内心羨望を憶えるネヴィアが虚空を駆け、流れるような斬撃を決める。そのまま自由落下に身を任せ、出来た隙へと刻まれる５連エンジェルクロー！
　その間に飛ばされた刀とサキリは着ぐるみさんと九月によってキャッチされ、来島 アカリによって回復してもらっていた。
「行けるか？」
　アカリの問いに刀もサキリも力強く頷く。やはり疲労は隠せないが、まだ心は折れていない。
「あの攻撃は厄介ですね……」
　射程延長スキルと移動速度を上げるスキルを同時平行で使用しながら翼が少し離れた場所からナイフを投げ、様子を伺う。彼女の言葉に頷きながら庚は『風魔手裏剣』で援護射撃をしつつコズエルの様子を伺う。
（まだ、何か一手隠してやがるな……）
　サキリと刀の攻撃に苛立ちを見せたコズエルが、再び余裕のある表情に戻る。それを見逃さなかった庚は少し下がる。
　コズエルが微笑を浮かべる。向けられる手の先には庚。だが、その先には前衛陣の治癒を続ける楓の姿があった。青白い蝶が十字を虚空に浮かばせる。
「夜海霧！」
　庚の声に反応し、カバーに動く努努 天才。咄嗟の判断で入り込み、小さな身体で猛吹雪に巻き込まれる。僅かな時間の静寂の後、雪煙が解けるも天才が動く気配は無い。うっすらと見えた氷に、楓たちの表情が険しくなる。天才は【凍結】してしまったのだ。
「しっかりしろ、努努！」
「早く回復してあげてっ」
　楓が叫んだのと同時に浮かびあがる十字架。下がったはずの楓さえも巻き込む距離に刻まれたソレへねむるが飛び込む。大盾を紋章の前に翳し、ねむるはガードの構えを取る。
　猛吹雪が、盾に押し返される。神経を集中させて防御効果を上げるスキルを使用し、どうにか【凍結】を免れるもダメージは半端ない。
「こいつで少し持たせてくれ」
　修がＨＰ自動回復をねむるに添付するも、それよりも早くコズエルがアタッカーたちに微笑みかけた。それをみた都の背筋に、ぞくり、と冷たい汗が流れる。
「むっちゃヤバい予感するよー！！」
「全体攻撃の予感がするっ！　注意しろ！！」
　防御力を上げ、【魅了】への耐性を上げる魔曲『鋼鉄のバルカロール』に変更し、修もタンク担当者にＨＰ自動回復と異常抵抗のスキルをかける。
　その最中、コズエルは瞳を細め、ふわり、と黄色に輝く蝶を解き放った。
「蝶から逃げろ、『芳しき黄』だよっ！」
「！　さわっちゃだめ！」
　ねむると九月が叫んで注意を促す。エフェクトに注意を払っていた刀やエスカルゴは瞬時に避ける事が出来た。
　大半は都が奏でていた魔曲の効果もあって免れていたが、数名が【魅了】され味方へと牙をむく。
「わわっ、らぎらぎ先輩しっかりして～！？」
　九月が押さえているのは、【魅了】された庚。その少し離れたところでは真白が【魅了】されたサキリから攻撃を受け、膝を付く。それでも彼は攻撃をやめない。九月は庚を押さえるので手一杯だ。
「ここは引き受ける！　貴方は回復を！」
　碧南が真白をサキリから庇い、爪の連撃をどうにか受け流す。その少し離れた場所では刀とエスカルゴが混乱の場に直接攻撃しようとするコズエルを抑えるも、その間を抜ける白い影。
「そっちにいかせませんっ！」
　たゆん、と胸を弾ませ翼が立ちふさがろうとするも突き飛ばされる。その影が迫るのは……後衛！