アモーレ４アモーレ！｜リアクション

アモーレ４アモーレ！

　まるでチョコレイトのようなゴシックロリータのジャケットスカートに身を包んだ日和は幸福そうな人々の様子を眺めて楽しげに笑みを零す。
　恋する乙女には愛をもっともっと欲しいし、女の子は甘い物が大好きなのだ。
「愛が食べれるなんて素敵だと思うの」
　結婚式が行われる度に食べる事の出来た愛。ラブが生まれる瞬間を見詰めて居れば、ころりと星屑が零れ落ちるのがその目でしっかりと捉えられた。
　小さなハットを飾り、腰掛けていた椅子から立ち上がり、姿を見せた大橋尚先生と高良聡介氏の結婚式瞳を輝かせる。
「すごい――」
　愛情がきらりきらりと落ちてくる。おめでとうございますと両の手を叩き、瞬けば、彼女の目の前にはヴァイオリン。
　甘いミルクイティ色の髪を靡かせて、ゆっくりと彼女は息を吐く。
　祝福は、音楽や音色を通じてが一番な気がしてならないのだ。
　恥ずかしそうに頬を赤らめ、旦那様となる聡介氏を見詰めた尚先生へと日和が奏でたのは『Salut d'amour 』――婚約者とのその祝いの為に作曲されたと言う幸福な曲は日和の想いを柔らかに、和やかに伝えていく。
　満ち足りた思いに、満ち足りた気持ちが心を穏やかにさせていく。

　

　愛は見えない物だから。
　見えるのならとても嬉しい。
　奏でる音色に尚先生が「ありがとう」と呟いた。その真っ赤なかんばせに、浮かんだ涙が幸福を思わせて日和は大きく頷く。
「おめでとうございます。キラキラしてて、素敵な愛が落ちてくるのね」
　愛情が、星屑となって落ちてくる。
　天使の翼を揺らしたヴァイオリニストは幸せだというように星屑を一つ、二つと拾い上げた。
　彼女の隣で、瞬き状況が分からないと椅子に腰かけたまま茫然としている羽生碧南が「え」と漏らす。
　美しい花々に囲まれ、整然と設置されたテーブルからレストランなのだろうかと彼女は推測していたのだろう。
　均衡のとれた長身に、彼女の何もある『碧色』の美しいドレスを纏った碧南は緊張した様に鏡へと向かい――大人びた印象を持てる自分に「これが、私？」と驚いたばかりだった。
　日和の近くの席で、美しい花々を愛でていれば、運ばれてきた幸福の味がする飲みモノが胸を満たす。
「……先生？」
　それだけでは、終わらない。「ほら、式がはじまるわ」と柔らかに告げた日和に誘われ目を開ければ尚先生がそこにはいるのだ。
「えっと……、結婚式？」
「そうなんだ。姪っ子に祝って貰えるなんて叔父として嬉しい」
　冗談めかした聡介氏に碧南の頬が赤く染まる。自称『高良氏の姪』だったのだ――面識があると、どうにも照れて仕方がないという事だ。
「んんん、それより式を行うって聞いて。素敵じゃない。
　このレストランもなかなお洒落だし、料理とかも美味しそうだし……」
「ラブで出来てるのよ。よければ、一緒に頂かない？」
　ほら、と天使達が差し出す料理を勧める日和に碧南は小さく頷く。
　結婚式という幸福な事象が、背が高くバスケ部員として有望株である『カッコイイ碧南』からかけ離れた想像を醸し出す。
　ラブで出来た料理――ラブの星屑――結婚式……。
　脳裏に過ぎる『イケメン』達との捲るめく脳内妄想ショーに思わず緩みかけた表情に日和が首を傾いだ。
「えと……？」
「あ、何も。何もないわ」
　――脳裏に浮かんだ、結婚式エンディングのスチル。
　最高のスパイスを料理に振りかけて碧南は日和と共に『料理』を口にした。
「うん、美味しい」
　自分の想いがこうして形になればと感じずにはいられないと日和は小さく息をつく。
　でも、それでも――目に見えない愛を伝える事ができるならば、それはもっと幸せだ。
　今は、美味しい愛を暫く食べていようと願う様に日和は新たなラブを注文した。