『輝け！　ミッドナイト・フリーキー・コンテスト！　第一部』（７）

「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ！　『僕はアイドル系の音ゲーをやっていたと思ったら、いつのまにか自分がアイドルになっていた』」
　エスカルゴ・臼居の語る鉄板ネタに、彼らはごくりと喉を鳴らして聞き入ります。今ここで起こっている状況に対して、何らかの情報、あるいは解決策が含まれていることを期待したがためでしょう。彼はグググと力を入れながら、
「な……何を言ってるか分からねーと思うが、僕も何をされたのか分からなかった……いきなり謎のプロデューサーなる男が舞台で歌えとか言いだして衣装まで渡されて、頭がどうにかなりそうだった……オカルトだとか超常現象だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……なので、ユーたちも巻き込んでやったぜ」
「「「こっこっ、このやろーーーっ！！」」」
　なんてこったい！　とばっちりでした。
　そんなわけでして、エスカルゴ先輩はオレンジと黄色のへそ出しセパレートでフェミニンなアイドル姿。黒髪ロングヘアのウィッグも、バッチリ似合ってたりします。
「す、スタッフとして……手伝ってくれって言うから……！　この衣装、どっからどう見ても女物じゃねーか……！」
　そして、既に着せられといてナンですけれど、ぷりぷりと憤慨する来島 アカリもまた、ピンクのフリフリスカートが実に可愛らしく。お隣の卯木 衛だって、短いスカートの裾を気にしつつ、
「これ、なんか落ち着かねーよ……くっそー、何でスカートなんだよーもう！」
「でも、ここまで来ちゃったらもう、やるしかないよ！　みんなで一緒にがんばろっ！」
　きゅぴりん！　ノリノリなのは、ネットアイドル猫島 悠華……こと鮫島 裕也。爽やか水色のリボンやら花柄のエプロンドレスやらが驚くほど似合う彼は、某キャットアイランド等でアイドルライブを披露した経験があり、何とも頼もしいのです……とはいってもネット上のアバターでの話でして、生身で歌って踊るのは初めてですけれど。
　とにかく事ここに至っては、逃げ出すにもどこへ逃げたもんだか分かりませんし。こりゃもー、やるしかない！　きらきら、明るい笑顔で鼓舞する悠華に、顔を見合わせた衛とアカリも、
「ううっ。こうなりゃ腹くくって、やるしかねー！」
「そうだな……折角だし、登場から派手にいきてーよな。かけ声決めて、同時に飛び出すとか……？」
「お、いいなーそれ！」
　なんていつの間にやら前向きで、エスカルゴはバッチリ思惑通り、フフフとほくそ笑むのでした。

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　合言葉は、エスカルゴ先輩の大好きなアレ。
「せーの！！」
　声を揃えて、同時に舞台へジャンプ、ぴょんっ！！



「「「「う・め・コ・ン・ブ！」」」」


　ぱ！　４人が現れると同時に流れ出す、弾むような、駆け抜けるような、元気いっぱいのメロディ！！
「みんな～っ！　今日は来てくれてありがと～！」
　どわーーーっと四方から湧き出した歓声へ、悠華が手をフリフリ、ぱあっと華やかな笑顔を浮かべて。どう聞いても女の子にしか聞こえない声は、実はちゃっかりボイスチェンジャーＯＮ！
「僕たち、精一杯がんばるから、最後まで見てってね！　それでは、聞いてください！　曲名は……『Nyantamental Venus』！」
　淡いピンクに青、黄色のまばゆい照明がきらきら。中央から放射状に走るバックライトに照らされて、浮かび上がる４人の晴れ姿。
　声を合わせて、かろやかステップ！　そんな彼らはまさに、オシャレで、ポップで、これでもかってくらいに、アイドル！！



　堂々たるセンターを務めるのは、エスカルゴ。
（う、うわぁ。思ったより恥ずかしいじゃん、これ……！）
　みんなも巻き込んで良かった！　と内心思ったとか思わなかったとか、ともかく一番年上でメンバーを引っ張る立場であるからには、恥ずかしがってばかりもいられません。
（えーいっ、どうせならコールが入るくらい、観客や視聴者が熱狂するように……！）
　いつもなら、早くお家帰って寝る！　ってなものですけれど。今のエスカルゴは、フラッシュを浴びて輝いて、軽快にステージを動き回っては笑顔を振りまいて。全力全開です！

「つま先立ちで、Venus　このチャンスに、キミの唇　つかまえるよ」


　実はアカリの母親は、元アイドル！　素養はバッチリ、備わっていたのかもしれません。
「はじめまして、アカリですっ！　今日はみんなのために、せいいっぱい頑張るね！　だから、応援してくれたら嬉しいなっ♪」
　そんなアイドルサラブレッドな遺伝子のたまものか、今のアカリは、ショートカットの清楚な女の子。かと思うとくりんっと小首を傾げて、パッチリウィンクを決める様は、ちょっぴりイタズラな小悪魔！
「みんなも声出して、私たちと一緒に歌ってね……きゃあ！？」
　なんてつまづきかけて、ふわぁっとスカートがめくれあがって、ちらり！　なんてお色気ハプニング、ステージに届く悲鳴みたいな黄色い声には、可愛らしく舌をぺろりっ。

「町は涙色　雨上がりの虹の下で　キミに言うよ」


（悠華のイメージを崩すわけにはいかない……！）
　ネットアイドルとしてのライブ経験が、これほど現実において役立つとは、彼自身も思ってはいなかったことでしょう。身体は自然と動いて、浮かべた明朗な表情も、何気ない所作や振り付けの指先に至るまで、まさに悠華そのもの。再現度は、カンペキ！
（意外とハードだな、これ……でも、何か楽しくなってきたぞ）
　ダンスの腕前はあくまで普通、マイクを落としかけたり、ちょっぴりドジも。そんなところまで取り入れながら、とにかく元気に！　悠華は、ハイテンション！
「さあみんな、声を合わせて！　せ～のっ♪」

「ヒロインまで３秒前　歩き出すよ　このキャットウォーク！」


　間奏の合間に、衛はぴっ！　と観客をあおるように指差すと、とんとんっとつま先で床を蹴って、
「いっくよーーー！」
　たたたたたっとステージを端から端まで疾走！　助走をつけて……ジャンプ！　くるりんっ、華麗に宙返り！
　ひらひらたなびくスカートの中に、輝く純白のフリフリヒラヒラ、ドロワーズ……わああああ！！　色めき立つ観客たちの、割れんばかりの大歓声！
　小さな身体で、手足をめいっぱいに広げて、衛は全力パフォーマンス！　持ち前のちょっぴり高めなハスキーボイスも相まって、ぴょこぴょこ跳ねるように動き回るその様は、もー完璧なまでに可愛らしい女の子！！
「パーフェクトでいくよ、おーっ！」

「Nyantamental Venus　ため息ひとつ　こぼれた虹色、受け止めるよ！」


　それぞれに違った、けれどいずれも魅力的な、アイドル４人組！　女装でスカート履いて、なんてことはもうすっかり忘れて、頭の中にいっぱいなのは、みんなを楽しませること。思いっきり、楽しむこと。ただ、それだけ！
「もうっ、最高！　最高のステージだよ～！」
「みんなありがとーっ！」
「ほら、もっともーっと、盛り上がっていこー♪」
「声を合わせて、いっくよー？　せーのっ！」



「「「「Nyantamental Venus！！」」」」

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「へへー、やったなー♪」
　スカート男子４名、最後まできっちりとアイドルを演じ切って、大満足。ぱち、ぱちんっとハイタッチ！

「こんな才能が我が寝子島に眠っていたとは、こりゃ市をあげて大プッシュせにゃならんね！　まもちゃーん！　エスカちゃーん、アカリちゃーん！　悠華ちゃーん！！　ふとももスリスリさせておくれえええ！！」
「やだ、何なのこの胸に湧き上がる感情って……！？　女の子４人組？　なのにこの、そこはかとなく漂う美少年のかほりが……ああんたまんないわ、きゃーーーっ！」



　ステージの中央にするりと歩み出た、ノイジー・パンジー。ひとつ優雅に頭を垂れて、くいと眼鏡のフレームを押し上げて、彼は宣言します。
「皆さま、素晴らしいステージをありがとうございます！　審査員も大興奮、視聴者の方々にもきっと、ご満足いただけたことでしょう。さて、ここでひとまず、第一部は終了となります……注目の第二部は、また後ほど！　それまで、ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　を、引き続きお楽しみくださいませ。それではしばしの、ごきげんよう！」

＜『輝け！　ミッドナイト・フリーキー・コンテスト！』　第二部へつづく＞

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