【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ｜リアクション

【星幽塔】酒場にて　→飲む　→話す　→外に出る　→脱ぐ

　獅子目悠月が広場に飛ばされていた頃、登校途中だった卯木衛と立花なつは城下町の大通りに飛ばされていた。

「あれ～？　迷子だねぇ？」
　目の前を荷馬車がガラガラと通り過ぎるのを見ながら、なつはのんびりと呟いた。いや、内心は結構驚いていたのだ。彼の格好も、粋な色使いのファンタジー風な和服に変わっていた。その帯に留められた蝶の形の帯留めが、外灯にぼんやりと照らし出されている。
　自分の服装をしげしげと見る幼馴染みの横で、衛は眉をひそめていた。ここに飛ばされる直前、頭に響いてきた声には聞き覚えがあったのだ。
（オーブとか星の光ってことはこないだの扉と一緒か。つう事はこれ、あの塔か……？）
　あの元気な少女はまた何かやらかしてくれたらしい。衛は「よくわかんないけど、面白そうなところだね～」と顔を上げて言うなつを見た。

「なつくん、これ多分塔の中だと思う」
「塔？　まもる、ここがどこだか知ってるの～？」
「知ってるっちゃあ知ってる、かなぁ……」
　衛が知っているのは塔が出現した所までだ。しかし今回は少女に何を頼まれた訳でもなく、いつ帰れるかもわからない。それでも自分はまだ１度経験があるからいい。コレ、突然飛ばされた人困るだろーな……。
　つらつらと考えていた衛はうん、と１つ頷くとなつに向き直った。
「なつくん、宿屋作らないか？」
「宿屋？」
「なつくんご飯作って俺が計算とかしてさ。人が集まって情報が手に入る宿を作れば、今後も色々と役に立つんじゃね！？」
　なつの口がほええと丸くなった。
「宿作りかぁ、楽しそう。料理なら任せて～♪」
「よし、決まりだな。でかめの空き屋とか安く手に入んねぇかな」

　この世界での方針を決めた２人がわいわいと話し合っていると、遠くから見知った声がした。
「おー！　なつと卯木だー！」
「あ、アカリだ～♪」
　それはなつのクラスメイト来島アカリだった。なつは親しげにぶんぶんと腕を振り、衛も見知った顔にようと手を上げる。アカリが少しホッとした顔で駆け寄ってきた。
「いや、何か女の子が竜退治がどうこう言ってる声が聞こえたと思ったらいつの間にかここにいてさ。知った顔がいてよかったぜ」
「竜退治～？　女の子の声はしたけど、俺は内容まで覚えてないよ～？」
　なつが首を捻った時、また彼らに声がかけられた。
「あれ、卯木君、だよね？」
　ひょいと衛が振り向いた。知った顔に嬉しそうに手を挙げる。
「あー、ねむるくん！」
「良かったぁ。やっと寝子島から来た方に出会えたよ。よく分からぬまま飛ばされてきて、少し不安だったんだ」
　それは日暮ねむるだった。どうやら今まで１人だったらしく、ねむるは衛に安堵しながら微笑む。また新たな寝子島住民の登場にアカリが驚きながら言った。
「これどんくらいここに飛ばされて来てるんだ？！」
「確かに結構な数かもね～。これなら宿も作りがいがあるねぇ」
「「宿？」」
　なつの言葉にアカリとねむるが聞き返す。衛は２人に事情を説明してやった。
「へえ、いいんじゃないか。俺にできることがあったら手伝うぜ」
　アカリは二つ返事で答え、ねむるもまた興味深そうに頷いた。
「拠点に宿屋か。こうして出会えたのも何かの縁だし僕もお手伝いするよ。ちょうど小銭を稼ぐ方法も浮かんだからさ」
「おー、２人とも手伝ってくれるの助かる！　じゃあ俺はとりあえず拠点確保をがんばんな」
「俺は厨房担当になりそうだから、必要な物買い出しに行こうかな～」
　４人はわいわいと話し合う。そしてここに来るまでに街を探索したというねむるの情報により、衛とアカリは西はずれにある空き屋通りへ、なつは宿に必要な物の買い出し、ねむるは資金調達にとそれぞれ散って行った。