【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　目の前にずらっと並ぶ札を見て、小萩はある情景を思い浮かべていた。
「小萩は実家が岩手なので、雪や霜でお庭が真っ白になった風景には覚えがあります」
　整然と並んだ札の白い面は、白くなった冬の地面にも見える。
「さてー、この『おきまどはせる』中に小萩の『白菊』はあるでしょうか？」

　心あてに　折らばや折らむ　初霜の　おきまどはせる　白菊の花

　霜で真っ白な地面に白菊が咲いていたら、見分けがつかなくて折ることができないだろう、という遊び心が好きな歌だ。
　相手陣上段に咲いていた「白菊」を、小萩は華麗な動作で見事に折り取った。

　試合は竸った展開のまま、終盤にさしかかろうとしている。「攻めがるた」を続けながら、自陣も確実に守りたい本の虫チームでは、レイが一つ判断を下した。

　月見れば　千々にものこそ　悲しけれ　わが身ひとつの　秋にはあらねど

　七瀬が自陣の札―――これも字余りだ―――を取ろうと動いたのに合わせ、レイもさりげなく腕を伸ばす。そうして、七瀬の動きが邪魔されないようガードするのだ。
「僕はあまり運動が得意でないけん、助かりますねぇ」
　スピード勝負だと不利な七瀬も、これでさらに一枚ずつ着実に取っていける。この作戦が功を奏し、本の虫チームが先に札を減らし始めた。

　難波江の　葦のかりねの　一夜ゆゑ　身をつくしてや　恋わたるべき

　最後はレイが敵陣を払い、本の虫チームの陣地の札がなくなる。第11試合は、本の虫チームが４枚差でハートキーチームに勝利した。

「ふふ、僕たちの勝ちですねぇ」
　七瀬は満足げに、どこまでもマイペースな風情で笑っている。
「ところで小萩さん、気づいたんだけど」
　ふと、レイは相手の小萩に話しかけた。
「君が得意だった札、“ほ”とか“よ”、“こ”や“は”で始まる歌だったよね。名前の字の札なの？」
「わっ、気づいてくれたんですね！名前の字の札はぜひ取りたかったんです。『心あてに』の“こ”も名前ですよ！」
　小萩は、レイの記憶力と観察力に驚きながらも、嬉しそうに答えた。

　冴来は、試合前に二人のために祈ったことを思い出す。
「二人とも、楽しめたのかな……」
　しかし、ベストを尽くして満足そうな笑顔を見せる仲間を見ると、すぐに杞憂だと分かった。
「いい思い出に、なったよね」
　みゆきはそう言って、ちょっと身長差のある冴来と小萩の肩に手を置いた。

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