【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　朝ぼらけ　有明の月と　見るまでに　吉野の里に　降れる白雪

　この歌は、６字目の「あさぼらけあ」までしっかり聞かないと取れない。自陣の札は、間違いやすい「朝ぼらけ　宇治の川霧～」という別の札。
　アリーセは慎重に聞いてから、敵陣に手を伸ばす―――
「多少の出遅れは速さでカバーっ！」
　武道が手を出すときは、札を隠すように、畳の上すれすれを滑らせるように動かしている。アリーセの手は入り込めず、札は武道に守り取られた。
　同じ字で始まる歌をあまりにいっぱい固めると、お手つきの危険が高まる。アリーセのように、記憶力に自信がないと難しい作戦だ。ところが、慎重に行くとスピード重視の相手に隙が見えてしまう。少々誤算だった。

青山絢は、固唾を飲んで戦況を見守っている。
「……対戦相手はなかなかの強敵だね」
　体育科のアスリートなだけに、瞬発力はもちろん、勝負事に必要な心理的駆け引きにも長けているはずだ。
「でも、強敵相手の方が弱い相手よりも程よい緊張感があって好きよ。応援する方も張り合いがあるしね」
　試合中に写真を撮ってもいいのは、札を取って陣地の整理などをしているタイミングだけ。最大限の配慮をするのに越したことはないと思ったので、デジカメのシャッター音とフラッシュは事前にオフにしておいた。
　だが、絢はシャッターを切ることすらすっかり忘れていた。会場の耐え難いほどの緊張感と、それが破られるまでの長いようで短い時間。そして、その中で戦うクラスメイトや対戦相手の鬼気迫る様子に、完全に引き込まれてしまっていたからだ。

　志波武道は、集中して前を見た。百人一首は一通り覚えるよう頑張ったが、すぐ出てこないものも多く不安も大きい。一字決まりは手前、はじめの文字が同じものは相手に近い側に置いておく。恋の歌はその間だ。イメージと結びつくよう、両思い、片思い、失恋……というように、度合いでも分けておいた。
　これは自陣の話。札をやり取りする間に、相手の陣の傾向をしっかり見ておく。特に、一字決まりの札は要注意だ。

　風をいたみ　岩打つ波の　おのれのみ　くだけてものを　思ふころかな

　武道のこだわりの札が読まれる。狙いをつけていた武道は、敵陣にまっすぐ手を伸ばした。
「いやぁ、『波』ってあると何か注目しちゃうよね！ほら俺『志波』だし！」
　相手に渡す札をえらびつつ、軽口を叩く。
「まぁこれ、片思いのぼやきみたいな意味なんだケド。どうしてこうも恋の歌が多いんだ百人一首はッ！」